魔法少女☆ビジターナイツ出張支部2

「しくしくしくしく~」


 アパートの片隅――もとい、悪の結社ビジターナイツが戦闘部門出張支部(仮)の片隅で、傀儡3姉妹パペットシスターズの第二の刺客”蟲使い”エゥは、押入れの襖に向かって体育座りをしながら、さめざめと泣いていた。


「だらしねー」


「あう~」


 その背に追い討ちをかけるのは、同じく”獣使い”ガゥである。

 ミイラもかくやの包帯だらけの身体を布団に横たえて、先ほどからねちねちと口撃を続けている。


「自分はなんもしないまま、あっさりと逃げ帰ってきちゃってよ。あたいはこんな大怪我負うまで頑張ったってのに、それってどーよ?」


「でもでも~」


「でももくそもねー。逃げ帰るなら誰でもできる。一矢報いろうとか、そんな気概はないもんかね? あたいらはビジターナイツの花形、戦闘部門のエリートだぜ? なに、その体たらく」


「うう~」


 ますますエゥの背中が小さくなり、気配がどんよりと濁る。


「まあまあ、ガゥちゃんもそのへんでさ。エゥちゃんだって、悪気があったわけじゃないんだし」


 残る傀儡3姉妹パペットシスターズがひとり、ラゥがさすがに止めに入った。


 しかし、ガゥはラゥにも非難の目を向ける。


「悪気があろうがなかろうが、負け方ってもんもあんだろ? ま、勝負は時の運でもある。負けんのは仕方ない。あたいだって負けてこの様だしよ。でも、そりゃあ全力出してってのがまずは大前提だろ? ほれ見」


 ガゥが布団で半身になり、ギブスの上からリモコンを器用に操作してテレビを点ける。


 放送されているチャンネルはニュース番組で、恒例となった魔法少女関連の特番枠が組まれている。

 ちょうど現在の場面は、カブトムシに乗ったエゥが泣きながら逃げ帰っているところだった。


 テレビの中では、面白おかしいテロップや愉快なBGMが組み合わされ、エゥのいかにも惨めな負けっぷりが演出されている。


「うっわ。何度見ても情けねー。昨日からこんな特集ばっかでよ。怪我人のこちとら、寝てテレビ観るくらいしかやることねーのに、身内の情けねー負けっぷりを、繰り返し見せられるこっちの身にもなれってんだ。ったくよ」


「あうう~」


「へっ、あたいの分までカップ麺食ったバチだな!」


 とどのつまりは、ガゥは負け方云々というよりも、前回お隣さんから貰ったカップ麺をひとりだけ食べ損ねた恨みだったりする。

 食い物の恨みが恐ろしいことは、万国どころか全宇宙共通だった。


「え~ん、ラゥ~! ガゥがいじめるよ~」


「はうっ!?」


 嫌味に耐えかねたエゥが、部屋の対面にいるラゥにタックル気味に抱きついたことで、その中間にいたガゥが撥ねられて悶絶していた。


「よしよし。落ち着けエゥちゃん、どうどう」


「ひ~ん、ガゥが酷いんだよ~」


「……うぉぉい、今はあたいのほうが酷いことになってんだけど……」


 布団の上で、ガゥがぴくぴく痙攣していた。


「でも、正直予想外だったよね。まさか、ガゥちゃんのときに、あれだけ動物相手への攻撃に躊躇した魔法少女が、エゥちゃんの虫たちをあんなにあっさりと殲滅するなんて」


「そうよ~。ずるいよ~。あたしのときばっかり~」


 宇宙人と地球人の感性の違いからか、彼女らは生き物を区別して考えない。


 エゥが自信を持って用意した虫たちが、よもや悪即斬サーチ アンド デストロイとばかりに退治される嫌われ者などとは、夢にも思っていない。

 むしろ、テレビCMなどに頻繁に登場するだけに、地球での人気者だと信じ切っていたほどだ。

 それが害虫駆除の宣伝だと気づいてさえいれば、この不幸は避けられたのかもしれないが。


「接近戦を得意とするガゥちゃんが敗れ、物量攻撃を得意とするエゥちゃんも敗れた……となると、ここは戦略を見直す必要がありそうね。ただ正面から待ち構えるのではなく、搦め手も使わないとね。わたしたち傀儡3姉妹パペットシスターズも、残るはわたし独り。もし、わたしまで敗れるなんてことになると、ナイト様からどんなお叱りを受けるか……いえ、お叱りで済むくらいなら、まだマシね」


 ラゥは、首に抱きつくエゥの頭を何気に撫でつつ、安アパートの天井の安っぽい電球が揺れる様を見上げ、思いを馳せた。

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