魔法少女☆vs蟲使い
黒光りする分厚い装甲のボディに、天を突く雄々しい角。
見上げんばかりの巨大カブトムシは、間近で見るとドラゴンかなにかと相対しているのと変わらない迫力だった。
カブトムシが1歩進むたびに、地響きが足元を揺らす。
「こけおどしだよ、プリティエリアン! あれだけ大きいなら、動作も鈍くていい的さ! さあ、魔法で一気に殺っちゃいなよ!」
「同感だよ、ラビ君! でも、その当て字はどうかと思うよ?」
プリティエリアンは氷のリンクを滑走するような滑らかな挙動で、巨大カブトムシの側面に回り込む。
横滑りしながら、同時にマジカルステッキを構えていた。
「マジカル――え?」
しかし、その途端、煙を上げてカブトムシの巨体が消える。
「ざ~んねん。そうくるのはお見通し~。この仔はあくまで~あなたを誘き出すためでした~」
煙が晴れると、空中に浮かぶエゥの姿があった。
彼女が宙で座するのは、羽ばたいている虫の上――体長1mほどのカブトムシの上だった。
ずいぶん小さくなってしまったが、おそらくはあれが先ほどのカブトムシなのだろう。
「前回の敗戦から~、こちらも研究したんだよ~? あなたには~、長距離でも近距離でもダメ~。だったら正解は~、
エゥが笛のようなものを取り出して奏で始めると、プリティエリアンの周囲の地面の至るところが、いっせいに盛り上がった。
一面の大地がでこぼこと波打ち、そこからなにかが這い出ようとしてきている。
「それから~、あなたの弱点~それは~。地球の生物には~手出しできないこと~」
エゥが自信ありげに告げる。
確かに前回、プリティエリアンは動物園の動物たちを傷つけられずに苦戦した。
直情的なガゥが、自ら接近戦を挑んできたおかげで、勝機を得たようなものだ。
仮にガゥが、あくまで動物たちを主戦力に使い、指揮に徹していたのなら、前回の戦いもどう転んでいたかわからない。
「そして~この仔たちが~、あたしが選んだ~あなたを倒すために~最適な仔たちだよ~」
プリティエリアンは息を呑んだ。
虫は小さいゆえに非力に見られがちだが、もし体長が同じであれば、地球上に虫に勝てる生物はいないという。
仮に、たったひとつの蟻の巣すべての蟻を巨大化させて野に放てば、それだけで人類は甚大な被害を受けてしまうだろう。
「強さと速さを~兼ね備えたこの仔たちの攻撃に~、反撃もできないあなたが~どこまで耐えることができるかしら~?」
笛の音に誘われ、赤茶っぽい虫が、次々と穴から這い出てくる。
「――――!!」
地上に出揃った虫を見て、プリティエリアンは驚愕に目を見開き、思わず口元を押さえる。
それは等身大のゴキ○リの群れだった。
あまつさえ直立しているため、わさわさ動いている脚の付け根がむっちゃキモい。
居合わせた人々の声にならない悲鳴が国立公園に木霊し、遠巻きに囲んでいた観衆の輪が、即座にずざざーっと20mほど後退した。
中継していた報道カメラは「しばらくお待ちください」の画像に差し替えられ、最悪の放送事故にレポーターがマイクを握り締めたまま声をなくしていた。
「焼き尽くせ! マジカル☆バーニング!」
間髪入れず、プリティエリアンの魔法の炎が、問答無用で悪魔のGを焼却する。
瞬く間に燃え広がった魔法の業火は、一瞬ですべてを焼き尽くし、悪魔の群れを灰燼に帰した。
「ふぅ~……危ないところでした……」
プリティエリアンは、被害が最小限に収まったことに、額の汗を拭い、安堵の息を漏らした。
恐るべし、
まさか、初っ端から精神攻撃を仕掛けてしてくるとは。
危うく観衆共々、阿鼻叫喚の渦に巻き込まれるところだった。
避難していた観客からも、にわかに大歓声が巻き起こる。
世の中には、滅すべき絶対悪というものもある。正義はここに成されたのだ。
魔法少女と周囲の人々、皆の気持ちがひとつになった瞬間だった。
「……あら~?」
ただひとりエゥだけが、人差し指を顎に沿え、不可解そうに首を傾げていた。
「困っちゃいましたね~」
口調はそうとは思えないが、本気でエゥは困っているようだった。
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