魔法少女☆次なる刺客

 アキラ、もといプリティエリアンは覚悟を決める。


 自由落下で降下し、地表すれすれで静止する。

 上空にいるときから騒がしかったので、観衆は気づいていたようだが、目視できる距離に降りたことで、「おお~」とどよめきが走っていた。


「魔法少女プリティエリアン☆地球の平和を守りに参上です♪ ぶいっ!」


 お決まりの台詞とお決まりのポーズ。


 同時に、荒れ狂うシャッター音と歓喜の嵐。

 現地レポーターがマイクを向けて、観衆の声に混じってなにかしきりに叫んでいた(普段テレビを観ている側からすると、多分「なにか意気込みを一言!」とかだろう)が、さすがにそれは笑顔でご遠慮していただいた。


 中でも異様だったのは、どこで買い揃えたかプリティエリアンの顔写真入のTシャツを着た一団だった。

 年齢に幅はあるものの、皆一様に額にピンク色のハチマキを巻き、一糸乱れぬ統制で「ラブリィ」だの「プリティ」だのと掛け声を上げている。

 構成員には、アキラと同世代くらいかそれ以上の年代の者も混じっていた。


「プリティエリアンの非公式ファンクラブだね。いくつか来ているみたいだよ」


 ラビがのほほんと言う。


 これがあれか。噂に聞く『大きなお友達』とかいうやつか。


 ラビの言う通り、派閥が分かれているらしく、隣接する集団同士、お互いに負けじとダミ声を張り上げている。

 なにと闘っているのかは、アキラの理解の範疇外だったが。


(まあそれはそれとして……)


 アキラは華麗にスルーすることにした。


 前回より、明らかに人数は増えている。

 声援はありがたいが、期待の大きさと中身バレの恐怖から、微妙なところだった。

 笑顔の下でこうやって胃が軋むのは、もはやこれからも避けられないことなのだろう。


 こういうときは、余計なことは思考から除外するに限る。

 アキラは重要な商談に挑む心構えで気を引きしめた。


 ここは、戦うヒロインの本分、戦闘に集中すべきだろう。

 ――とか思いつつも、自分で自分を『ヒロイン』と称したことに、いきなりダメージを負ってはいたが。


 さておき。

 プリティエリアンは、巨大カブトムシの前に歩み出る。


 地上から見上げると、上空から見下ろした以上に馬鹿げた大きさだった。


「よ~やく来ましたね~。待ちくたびれちゃいました~」


 よっぽど待ちくたびれたのか、カブトムシの上から間延びした声がして、ひとつの人影が現われた。


 最初は逆光でシルエットしか見えなかったが、そのうちに目が慣れ、プリティエリアンの瞳にも、その姿がはっきりと映し出された。


 雄々しき一角づの、黒光りする体躯を持つ――カブトムシの着ぐるみ姿の、またもや中学生くらいの女の子だった。

 細目で、平和そう――というか、ほんわかとした顔が、着ぐるみから覗いている。


 ライオン着ぐるみのガゥは、ライオンに乗っていた。で、今度のカブトムシ着ぐるみっ娘は、巨大カブトムシ。

 なにか、決まり的なものでもあるのだろうか……?


 アキラは場違いにもそんな感想を抱いていた。


「あたしは~、傀儡3姉妹パペットシスターズがひとり~、”蟲使い”のエゥだよ~。覚悟してね~、魔法少女プリティエリアン~」


 覚悟を迫る緊迫感もない口調ではあったが、プリティエリアンは身構えた。


「ご紹介ありがとね! 私は、魔法少女プリティエリアン☆地球の平和を守りに参上です♪ ぶいっ!」


 こうして、熱戦の火蓋は切って落とされたのだった。

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