魔法少女☆ビジターナイツ出張支部
見た目どこにでもありそうな平凡なアパートの一室――そこが悪の結社ビジターナイツの出先機関、戦闘部門出張支部(仮)だった。
六畳二間の2DKの安アパートだが、一応風呂とトイレ付き。
そこに、
「うふふふふ。あんなに意気込んでいったのに、負けちゃったね。ガゥちゃん」
「……うっせー」
「あらあら、なにか不服そう。負けたら笑ってあげましょうって、最初に言ってたよね? ねえ、エゥちゃん」
「ガゥ……かっこわる~。ぷくく~」
「くっそー! 次は負けねぇ!」
出張支部(仮)内ということもあって、3人とも例の
ごく一般的な中学女子の服装で、外観からは地球人と見分けがつかない。
ただし、先の戦闘で大怪我を負ったガゥだけは、見るも無残な全身包帯のミイラ状態だった。
「だいたい、あたいが初っ端って不利すぎねえ? 情報も皆無だしよ! あの魔法なんとかが、あんなに接近戦もバカ強いとか聞いてなかったぞ!?」
「わかってて先陣切ったのはガゥちゃんでしょ?」
「言い訳~、かっこ悪い~」
「うっせ――あ痛たたっ!」
動いた拍子にガゥの吊った腕がちゃぶ台に当たり、ガゥは悶絶していた。
「くっそ! どうしてこんなに狭苦しい部屋に押し込められにゃならねーんだ!?」
ガゥは腹立たしげにちゃぶ台を蹴り、今度はギブスで固定した足をぶつけてまた悶絶している。
「確かに戦闘艇のコックピットよりも狭いけど……これでも、この日本では平均的な住居らしいよ?」
「魔法少女を倒すまでの~我慢だよ~」
魔法少女を仕留めるまで、平時は現地に潜み、原住民に紛れて待機すること。
これは情報部門のトップ、ビショップの指示だった。
敵は強大な魔法という超破壊力を有している。
下手に大げさな拠点を用意して一所に集まっていると、もし拠点が発覚してしまった場合、一撃で共々屠られてしまう恐れがある。
それ故のこの出張支部(仮)という処置である。
これなら仮に所在が発覚しても、被害は最小限で済む。それに、これだけ現地に密着していれば、現地人まで巻き込んでの不用意な攻撃を受けることもないだろうとの判断だ。
「こんな狭い場所で縮こまって生活するのが好きなんざ、地球人はきっと生粋のマゾだな! 関わり合いになりたくもない!」
「そんなことないよ~。わりかし便利な人もいるよ~? ラゥとお隣さんに~引っ越しのご挨拶に行ったら~、ご飯分けてくれたし~」
「挨拶? なんで? いつの間に?」
「ガゥちゃんがやられて、生死の境を彷徨って蘇生カプセルの中にいた間にね。
ラゥが半眼で意味ありげに見つめるものだから、ガゥはバツが悪そうに視線を逸らした。
「未開の
「成分分析はしたから大丈夫よ。カップ麺とかいう非常食みたいだけど、原始的でチープな味付けがまたなかなかだったよ?」
「うん~、美味しかった~ハマりそう~」
ラゥとエゥのふたりが味を思い出して舌舐めずりなどするものだから、ガゥも思わず唾を飲み込んでいた。
「そんなにか? だったらあたいの分はある?」
「3人で暮らしてるっていったら~、3つくれた~」
「よし、流動食ばかりで飽き飽きだったんだ! さっそく用意してくれよ」
「でも~、ラゥとふたりで~、3つとも食べちゃった~けど~」
エゥは舌を出して、自分の頭をぽこっと叩いた。
「はぁ!? なにかわいこぶって誤魔化してんだよ? 3人で3個っつったら、当然、1個はあたいの分だろーが!」
「聞いて、ガゥ」
ラゥはちゃぶ台に身を乗り出して両肘を突き、組んだ両手越しに真剣な表情を覗かせていた。
「3つとも異なる味だったのよ……だったら、全部味わってみたくなるのが、人の性じゃない……?」
「真面目な顔して言いたいことはそれだけかぁー!」
暴れた拍子に滑りこけて全身を強打し、ガゥは三度悶絶した。
「まあまあ~落ち着いて~ガゥ。アジトに帰ったら~、埋め合わせのスィーツ~ご馳走するから~」
エゥは床にぴくぴく横たわるガゥの包帯頭を撫でて、ほんわかと言った。
「今度は~エゥが出るね~。ガゥのおかげで~敵の弱点もわかったし~」
エゥのにこやかな細目の奥で、瞳が真紅に光る。
ぞっとするような表情だった。
「それで、ようやくここともおさらばね。そしたらガゥちゃんのお仕置きも終わって、完治させてもらえて万々歳!」
ラゥは立ち上がり、天を仰ぎ、両手を天井に向けて掲げた。
電灯に当たって埃が舞ったが気にしない。
「…………」
ガゥは床で悶絶中。
「がんばろ~! えいえいお~!」
エゥも片手を揚げて、ぴょんぴょん跳ねた。
安アパートの敷板が軋みを上げる。
「勝利を我らに!」
「栄誉を我らに~」
「…………」
「「栄光あるビジターナイツの名のもとに!」」
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