魔法少女☆勝利です!
頭上から襲ってきた大鷲に気を取られているうちに、プリティエリアンの足元が地面に沈んだ。
プレーリードッグの掘った穴に片足が嵌まり、気を取られた隙に小型の動物たちが太腿付近まで、わらわらとトリモチのようにへばり付いてくる。
下手に力任せに振り払おうものなら、魔法少女の出力では小動物たちが肉塊になってしまう恐れがある。
「そこだぁ! 隙ありだぜっ!」
動物たちに紛れて、ガゥが突進してきた。
プリティエリアンは足が封じられ、回避もままならない。
ガゥの爪が顔面を襲い、プリティエリアンは上体だけ捻ってかわした。
「まだまだまだまだぁ!」
ガゥの勝利を確信した雄叫びが木霊する。
離脱はできない。直撃はもっとダメだ。
プリティエリアンは襲いくる怒涛の連続攻撃を、上体のみで器用にかわし続ける。
前後左右に身体を振り、スウェー、ダッキングを駆使しながら、ウィービングする。
一見、傍からはプリティエリアンが防御一辺倒に追い込まれているようにも見えたが――魔法少女の瞳に焦燥の色はない。
すでにプリティエリアンは、ガゥの攻撃を見切っていた。付与されている学習
対戦するガゥもそれを野性の勘で感じ取ってはいたが、だからこその勝機であるこのときを逃す気はなかった。
一撃必殺、左右から繰り出される渾身の爪撃が、次第に回転速度を増していく。
――それが、プリティエリアンの狙いだとも知らずに。
足を止めたまま、上体のみを回転させて巧みに攻撃を掻い潜るプリティエリアン。
右へ左へと上体移動する度にその速度は上昇し、やがて上半身の軌跡が
「今こそ決めるよ! マジカル☆デンプシー!」
プリティエリアンこと望月アキラには、もう20年以上も昔の学生時代当時、中高生の思春期男子にありがちな強さに対する憧れがあった。
中でも身近なボクシングまんがに熱中し、素人ながらに親に隠れて部屋でこっそりと技を練習していた時期がある。
今となっては黒歴史だが、身体はそれを覚えていた。
ガゥの単調になってきた爪撃を避けると同時、着ぐるみの脇腹に右の手甲を叩き込む。
「ぐえっ!?」
先ほどは攻撃の勢いでガゥを弾き飛ばしてしまったが、今度は逃がさない。
返す刀で続けざまに反対側から左手甲で打ち抜く。
「ぐええっ!?」
右左右左と交互に絶え間なく続くプリティエリアンの拳打に、ガゥは防御もおぼつかず、なすがまま。
攻撃圏内から逃れることも叶わず、左右からの驚愕の連打をほぼ無抵抗に浴び続ける。
ガゥの獣使いとしての能力も解かれ、プリティエリアンの足元から動物たちが逃げ出した。
「マジカル☆アッパーカットぉ!」
プリティエリアンは、光を撒き散らしながらの竜巻旋回のアッパーで、ガゥを上空高くに跳ね上げる。
ダメージが限界を超えたのか、ライオンの着ぐるみは火花を発し、ガゥもぴくりとも動けない。
「よし! 必殺技でトドメだよ、プリティエリアン!」
出番とばかりに、どこからともなくラビが飛び出してくる。
「威力は半死・瀕死・全死・爆死・滅死と各種用意しているよ?」
「物騒だね、ラビくん!」
全部『死』ついているし。
「じゃあ、半死で」
いくら敵でも見た目中学生くらいの女の子を殺めるのは後味が悪すぎる。
しかも子供もいる衆人環視の中、トラウマを残すわけにもいかない。
「ちっ……半死だね」
「舌打ちすんな☆」
「さあ、唱えてプリティエリアン! 世界と人類の平和のため、祈りをこめた聖なる魔法、『マジカル☆ブラスター』だよ!」
「よーし! いっくよー!」
プリティエリアンが右手を天高く掲げると、両手の手甲が光となって弾け散り、マジカルステッキに姿を変えた。
ステッキをバトンのように回転させ、頭上に放り投げると、周囲に星とハートと光のリボンが舞い踊る。
足元に淡いピンクの魔方陣が展開し、辺りの景色を桃色に染め上げた。
落ちてきたステッキをキャッチし、上空のガゥに照準を定める。
「願いを祈りに、祈りを希望に! 人々を希望の光で照らして! マジカル☆ブラスター、シュート!」
マジカルステッキの先端に生じた大小の光の球は、目標目掛けて殺到し、巨大な熱線の束となって一直線にガゥを打ち抜いた。
(あ、半死どころか死んだかも……)
アキラが思わず不安になるほどの威力だったが、ガゥが『覚・え・て・ろ・よ~』というお決まりの捨て台詞を吐きながら遥か彼方に飛んでいったところをみると、案外大丈夫なようだった。
プリティエリアンは気を取り直して観衆に振り向き、元気いっぱいに笑って右手を突き出す。
「撃退完了♪ 魔法少女プリティエリアン☆今日も平和を守ります! ぶいっ」
勝利を祝う大歓声が、晴れやかな青空の下に響き渡るのだった。
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