魔法少女☆戦闘中です

 アキラは覚悟を決めた。


「プリティエリアン、近接戦闘クロスレンジモード!」


 マジカルステッキが宙に浮き、光の粒子に解けて弾け散る。

 プリティエリアンが胸で両手を交差させると、虚空を舞う光の粒子が二の腕を覆い、両腕に純銀の光を放つ手甲を発現させた。


「――行きます!」


 プリティエリアンは低い体勢から地を蹴る。

 20m近くあったガゥとの距離が、コンマ数秒も経ずして零になる。


「んなっ!?」


 気づいたときには両者の瞳に互いの顔が映るほど。

 すでにプリティエリアンは、固めた右拳を腰だめに――攻撃モーションに入っている。


 野性の反応で防御が間に合わないと判断したガゥが、わずかに遅れて爪を振り上げた。

 着ぐるみスーツの対衝撃性能でやり過ごし、攻撃直後の硬直に爪を叩き込む算段だ。

 灼熱爪ヒートクローと拳――同じ一撃を打ち合うならば、威力に勝る爪撃のほうが当然、利がある。


 先手を打ったプリティエリアンの右フックが先にヒット。銀光を放つ手甲が、ガゥの着ぐるみにめり込んだ。


 ガゥの想定では、そこですぐさま強烈な爪の一撃をお返しするはずが――実際には振り上げた腕を下ろすことすらできなかった。

 プリティエリアンのパンチは鈍い音でガゥの身体に深々とめり込み、その身体を横殴りに10m以上も弾き飛ばしていた。


「~~~~!?」


 ガゥから声にならない悲鳴が上がる。

 吹っ飛ばされながらも、地面に投げ出される寸前に体勢をひるがえし、四足で踏ん張って校庭にブレーキ痕を刻みつつ、どうにか停止した。


「よーし、続けていっくよー」


 もうもうと立ち込める土煙の中、プリティエリアンは手甲を打ち鳴らし、即座に追撃に移ろうとする。


「ちょい待ち! タンマだ、タンマタンマ!」


「え? あ、うん」


 ガゥが両手を振り乱して大声で制止したので、思わずプリティエリアンも律儀に足を止めていた。


「っあ~~効いた~! なんだぁ、今の拳? このあたいのスーツの緩衝機能、意味ねえじゃん! あ”~……内臓が口からこんにちはするとこだったぜ……」


 ガゥが着ぐるみ越しに左脇腹をさすりつつ、げほげほ激しく咳き込んでいる。


「遠距離攻撃無効、接近戦でコレとか、どんなチートだよ魔法少女! 少しは遠慮とか手加減とか、そういう慎ましさ的なものはないのかよ!?」


 ガゥはぷんぷんと怒り出し、地団太を踏んでいる。

 コミカルなライオン着ぐるみでのその仕草は、ある意味よく似合っていた。


「なんか、ごめん」


 ついつい謝ってしまうプリティエリアンだった。


 実際のところ、中のアキラもその威力に驚いていた。

 薄々感じていたことだが、兵装を抜きにしても、変身後の運動神経はずば抜けている。

 先ほどのダッシュですら、音速を軽く超えていたはずだ。


(これは、魔法少女というより魔法兵器なのでは? いや、魔法という名の超科学兵器か……?)


 どんどん物騒なネーミングになっていく。


 弱ってタイムを申し出た相手を強襲するのも気が引けたので、アキラはしばらく待ってみることにした。


「あ~……よーやく、まともに息できるようになってきた。待たせて悪ぃな」


「お構いなく」


 あらためてふたりは対峙する。


 緊張感は薄いが、周囲のギャラリーは大盛り上がりだった。

 歓声とシャッター音がうるさいくらいだ。


「うーん、おめーとの真っ向勝負はいくらあたいでも、ちと分が悪そうだ。今度は搦め手を使わせてもらうとすっか。”獣使い”の真髄を見せてやんよ?」


 ガゥが口笛を鳴らすと、それまで整列して大人しく静観していた動物たちが、いっせいにプリティエリアンに襲い掛かってきた。


 当然、一般人だったアキラには猛獣に襲われた経験などなかったが、それでも動物たちの今の動きが常軌を逸していることは理解できた。

 獣の能力底上げも、ガゥの獣使いとしての能力の一端なのだろう。


 しかし、その上でも、力も速度もガゥには劣る。

 獣に襲われるという本能的な恐怖さえ押さえ込めば、魔法少女の敵ではない。


 獅子の牙をかわし、虎の爪を受け流す。象のプレスを避け、サイの突進をいなした。


 ただ、ガゥを頂点に、連携されて数に任せた攻撃は厄介だった。


(少し数を減らしたほうがいいのかな)


 プリティエリアンは手甲を構え、先ほどから巨体で踏み潰そうとしてくる厄介な象に狙いを定める。


「あ~、象たん……」


 ギャラリーからのそんな小さな呟き声を、プリティエリアンの強化聴覚は捉えていた。


 背後に居並ぶギャラリーの中、母親に抱かれた幼子が、親指を咥えて涙目になっている。

 こうして操られて暴れる動物も、普段は動物園の人気者、子供たちのお友達だ。

 小さな子供たちの目の前で、そんな動物たちを正義の味方魔法少女がぶん殴ったり蹴っ飛ばしたりしていいものかと、戸惑いがアキラの頭をよぎる。


「お優しいこって! でも、遠慮はしねえかんな?」


 ガゥの小馬鹿にした台詞と同時に、動物たちの攻撃が増す。

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