魔法少女☆初戦闘

「そろそろ見えてくると思うんだけど……」


 ラビが口にした丁度そのとき、遥か前方の夜空が明暗した。

 光点が弾けては消え、また弾けて消える。遅れてくる轟音と衝撃波の風。

 ビジターナイツと自衛隊の戦闘は、今や佳境にあるらしい。


 近づくにつれ、夜空に浮かぶ敵の大艇団が見えてきた。

 壮大な星空かと思いきや、発光するのは星ではなく、夜空を埋め尽くす円盤の発する光だった。


「無理無理無理無理! いや、普通に考えて無理でしょ?」


 映像では見ていたが、直では迫力が比ではない。

 荒れ狂う大波を前に、裸で単身立ちはだかった気分だ。


「よし帰ろう。明日も仕事があるし」


 アキラは空中でくるりと反転した。


「それも大丈夫だよ、アキ! 一昨日の夜、アキが居酒屋で管巻いているところの映像を、アキの会社の部長宛に送っておいたから!」


「……なんだって?」


 転進しようとしたアキラの身体がびくりと止まる。


 一昨日? 夜? 居酒屋?

 あの日は翌日が珍しい午前休で、独り深酒してはっちゃけて……溜まりに溜まった上司の鬱憤を盛大に叫んでいたような……


「……終わった……」


 あの陰湿な部長のことだ。

 間違いなく明日会社に俺の席はない。


「くっそう! やればいいんだろ、やってやらー!」


 アキラは自暴自棄になった。


「その意気だよ、プリティエリアン! でも、身バレが嫌なら、口調は女の子っぽくね!」


「わかったわ、ラビくん!」


 アキラは正気を見失い、いろいろかなぐり捨てた。


「音声拡張機能、オーン!」


「待ちなさい、そこまでよっ!」


 プリティエリアンの可愛らしい声が、大音響となって周囲に響き渡る。


 自衛隊のサーチライトの群れが、いっせいに上空で静止するプリティエリアンの姿を捉えた。

 まるで、ライブ会場のスポットライトのよう。

 夜空に映し出される可憐な少女の姿は、戦場にあって戦乙女を髣髴させるように神秘的だった。

 ちなみに、さすがの高機能で、かなり際どい角度で下から照らされているにもかかわらず、パンツは見えてなかった。


「魔法少女プリティエリアン☆地球の平和を守りに参上です♪ ぶいっ!」


 空中で可愛い決めポーズ。

 本人の名誉のために述べると、台詞やポーズ含めてオート仕様だった。決してそこまでアキラが己を捨てたわけではない。


 色々な意味で、周囲がどよめく。

 自衛隊のみならず、命知らずの報道ヘリや、平和ボケした野次馬がスマホ片手に、その状況を撮影する。


 新たな敵の登場に、円盤群の機首が一斉にプリティエリアンに向いた。

 たったひとりの少女相手に、なんて大人気ない――


「はわわ、ピンチだよ。どっしようか、ラビくん?」


「いいよいいよー。ノリノリだね、プリティエリアン! ステッキを手に叫んで。『マジカル☆イージス』だよ」


 とてつもない数での一斉射撃で夜空が一瞬、昼のように明るく照らし出される。


「皆を守って! マジカル☆イージス!」


 ステッキの先端で空中に魔方陣を描き、きゃるんとポーズを決めて投げキッスをする。ちなみに、これもまたすべてオート。


 地図規模で、日本列島を覆っていた雲がすべて吹き飛んだ。

 それほどの衝撃波を発する一斉攻撃、当然、その直撃となれば、凄まじいを通り越すほどの威力だったはずだが――靄が晴れた空中には、完全無傷の魔法少女の姿があった。


 本人はもとより、周囲にも影響ひとつ与えない、絶対防壁マジカル☆イージスの真骨頂だった。


「次はごにょごにょ――」


「わかったよ!」


 プリティエリアンはステッキを両手に構え、敵艇団を真正面に捉えた。


「お返しだよ! 輝いて、魔法の光! 照らして、皆の笑顔を! 究極魔法――」


 ステッキの先端の星のオブジェが∞を描き、プリティエリアンの周囲にいくつもの魔方陣が浮かび上がる。

 次々と色を変える魔方陣は、やがて複雑に重なり合い同化して、巨大な立体魔方陣を形成する。


「マジカル☆スーパーノヴァ!」


 衝撃も音もなかった。

 ただ、目を開けていられないほどの閃光が世界を埋め尽くし――夜の闇が勢力を取り戻したときには、敵艇団の一艇すらも、夜空に残ってはいなかった。


 唖然とし、次いで事実を把握し、湧きに湧く人々。


 そんな中、魔法少女プリティエリアン――もとい望月アキラは素に返って、


「……うっわ、えげつねー」


 そんな言葉を呟いていたのだった。

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