魔法少女☆戦場へ赴く

「なにこれ! リアルなのか!?」


「もちにリアルでライブだよー」


 映像では、地球側の各国軍の圧倒的に不利な状況だった。

 近代兵器の数々が直撃する寸前にすべて消失し、小さな円盤ひとつ落とせやしない。

 反対に相手側からの攻撃は、放たれるレーザーが航空母艦をバターのように切り裂き、一撃の光弾で地上兵器部隊が大地ごと消え去る。兵装の違いが圧倒的過ぎた。


「まあ、母星と地球じゃあ、文明の差が数千年はあるからねー」


 ラビは呑気なものだった。


「何人……いや、何千何万人が死んだんだ……」


 アキラは愕然となった。

 故意ではないとはいえ、この事態が起こる引き金を引いたのは――


「あ。誰も死んでないよ。念のため」


「へ?」


「こちらもきちんと予習してきてるから。魔法少女もので人が死ぬことはないよね? 今回も、兵器の破壊と同時に操縦者をテレポートさせているんだー。ビジターナイツあちら的には、人間も征服後の貴重な戦利品だから殺さないことにしてる、って設定らしいけど」


「な、なんだ。ビビッて損した」


「征服後は地球丸ごと資源として分解するらしいけどね」


「はぁ? じゃあ、征服されたら人類滅亡ってことじゃねえか!」


「そうなるね」


 お気楽なラビの態度に、アキラは頭を抱える。


 そんなアキラの神経を逆撫でするように、さらにお気楽なメロディーが聞こえてきた。

 音源は、何故か床にぽつんと置かれたアナログの目覚まし時計で、表面には古いアニメの絵柄が描いてある。超文明の粋にあるようなこの円盤内では、明らかに異質な物だ。


「あ、時間だね! そろそろ出ようか、アキ?」


「……出るって、どこにだよ?」


「そりゃあ、日本を攻撃している敵の迎撃さ! 出撃だよ、魔法少女プリティエリアン!」


 ラビが叫んだ瞬間、アキラの足元の床がぽっかりと空いた。



◇◇◇



 アキラ、もといプリティエリアンはラビと共に夜空を飛んでいた。

 かなりのスピードで、風を切り裂き、星が景色が、次々と後ろに流れていく。


 飛び方など知りもしなかったが、変身時はそれが当然であるように自在に宙を舞える。

 これも、魔法少女の能力のひとつらしい。


「ちょっと待て! 本当に俺がやんの? 無理だよ無理! 最近は碌に運動もしてないのに、やっぱ無理だって!」


「大丈夫だから。魔法少女は無敵なのさ」


 何度目かしれない会話を繰り返す。


「それに、プリティエリアンが戦わないと、あっさり地球は征服されちゃうよ? 皆、死んじゃうんだよ? アキのせいで」


「――ぐっ」


 そう脅されるのもすでに何度目か。

 事の仕掛け人側に指摘されるのも癪だが、事実は事実だった。


 原因が地球人の誰にあるかと問われると、少なくともアキラにないとは断言できない。

 もちろん全部ではないが、不本意ながら0でもない。

 当人が負い目に感じるくらいには。


「こんな、ちゃっちぃ武器だけで、本当に戦えるのかよ……?」


 小さく軽い、魔法のステッキ。

 玩具屋で3千円くらいで売ってそうなものと見分けが付かない。


「服装にも防御力は皆無だし……」


 パステルカラーと装飾で、見た目の派手さには事欠かないが、軽くて生地もぺらっぺら。

 厚い鎧ならまだ安心感もありそうだが、これでは不安しか残らない。

 それに極めつけは、このふりふりフリルの超ミニなフレアスカート。スカートなんて初めて穿く上に太ももはすーすーするし、風でひらひら吹かれて落ち着かない。空飛んでいて、下から丸見えって、隠していることになるのだろうか。


 アキラは無駄な抵抗で少しだけ裾を引っ張ってみたが、その分だけスカートが下にずれて、今度はへそが丸出しだ。

 ちょっと泣けた。


「大丈夫だよ、プリティエリアン! 魔法少女のパンツは見えないのが鉄則さ! どんな角度でも決して見えない機能搭載だから、安心してね」


「なに、その無駄高機能……」


 超文明の異星人の感覚は謎だ。


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