魔法少女☆誕生
望月アキラはごくごく平凡な男だった。
勉強が得意でも運動が得意なわけでもない。
それでも、小学生の頃は神童と呼ばれた時期もあった。
親の勧めから著名私立小学校に入学し、進学校の公立中学校に入学し、一般私立高校へ入学し、3流大学へ入学した。
『10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人』の言葉はあるが、アキラの場合はもう少し小刻みだ。
『5で神童、10で才子、15で只の人、20過ぎれば並以下の人』を体現している。人生右肩下がりだ。
大学卒業後は不況の煽りを受け、就職で30社以上落ちまくってどうにか内定取れたのが、案の定というかブラック企業。
休日出勤、サービス残業は当たり前。過労死時間など遥か超過。でもって年収300万。
遊ぶ時間もなく友人は離れ、結婚どころか恋人もなく、入社以降の思い出すら碌にない。気づいたらそんな生活を10年以上。
「でも、俺より酷いところもあるからなぁ」
上を見たらきりがなく、下を見ることで自分を慰める。
いつものように終電ぎりぎりに飛び乗り、自宅の最寄り駅に着いたのはとっくに午前様。
近所のコンビニでワンカップ酒を買い、ほろ酔い加減で独り上司を愚痴りながら帰っていたそのときだ。
頭上に空飛ぶ円盤が出現し、光の柱が降ってきた。
「やー、遅くなってごめんね、アキラ君! 君の願いを叶えにきたよ!」
陽気なアニメ声で光の柱から現われたのは、もこもことした丸い身体に長いうさ耳を生やした、赤い眼の白いぬいぐるみだった。
◇◇◇
アキラが次に目覚めたのは、光で真っ白な空間だった。
向かい合わせに座るのは、先ほどのぬいぐるみだ。
「僕はラビ。よろしくね!」
アキラは酔ってはいたが、ほんの少量、我を失うほどではない。
空飛ぶ円盤に、目の前の奇妙な生物(?)。超常現象だか異常事態に巻き込まれているのは間違いない。
「お、俺をどうする気だ? まさか、解剖とか標本とか……?」
「まっさかー! そんなことはしないしない。言ったでしょ? 君の願いを叶えに来たって!」
「願い?」
そういやさっきも言っていた。
これはもしかして、命の危険どころか、日頃から虐げられている俺に対して神様がくれたチャンス?
俺にも運が向いてきたってこと?
「だったら――」
「君を立派な
お金を――と言いかけたアキラの言葉は打ち消された。
「……は? 魔法少女?」
「うん! そうだよ!」
満面の笑み。アキラの聞き違いではなさそうだった。
「はいこれ!」
何にもない空間から、いきなり棒状のものが出現する。
「さあ、そのステッキを握って大きく掲げてみて!」
ステッキ――先端に大きな星型の装飾がくっ付いている、たしかにステッキと呼べる代物だった。
やけにカラフルで、繊細な模様とリボンがあしらってある。
「は、はぁ……」
アキラは展開についていけず、とりあえず言われるままにステッキを掲げてみた。
直後、ステッキの星が回転し、アキラの身体を包むように星と七色の光のシャワーが降り注ぐ。
会社帰りでよれたスーツが光に解けて弾け飛び、全裸になる。
体毛が消え、肌がみずみずしく、身体が小さく縮む。
毛根が弱り細くなっていた髪が瑞々しさを取り戻し、一息に伸びて、キューティクルの効いた艶やかなパープルピンク色のセミロングとなる。
周囲の光から湧き出したリボンが、光を撒き散らしながら身体に巻きつき、服となり、ブーツとなり、手袋となり、色とりどりの衣装と化す。
舞っていた髪の毛が勝手にツーサイドアップにリボンで結わえられ、手首にリング、額にティアラが出現した。
カーテンとなって視界を覆っていた光がステンドグラスのように弾けて消え――そこからステッキとパステルカラーの衣装に身を包んだ、ひとりの小学校高学年くらいの少女が出現する。
「魔法少女プリティエリアン☆地球の平和を守りに参上です♪ ぶいっ!」
と、決めポーズ。
そして、そのまま固まる。
正気に戻ったアキラは、自分の姿を愕然とした思いで見下ろした。
ご丁寧なことに、ラビが姿見まで用意してくれている。
「な、なんじゃ、こりゃー!」
アキラ――もといプリティエリアンは、がに股のまま甲高いアニメ声で叫んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます