おっさんは魔法少女で涙目です

まはぷる

魔法少女☆現わる

 パステルカラーのふりふり衣装に身を包み。


 パープルピンクのセミロングをツーサイドアップでまとめ。


 華奢な身体で軽やかに宙を舞う。


 星を模した魔法のステッキを手にして。


「マジカル☆エクスプロージョン!」


 正義の魔法で悪の異星人を退治する。


 白いもこもこ兎、サポートキャラのラビくんを従えて。


「撃退完了♪ 魔法少女プリティエリアン☆今日も平和を守ります! ぶいっ」


 左手を腰に、ステッキを右手で掲げて決めポーズ。


 戦いを見守っていた観客からの大いなる歓声。割れんばかりの拍手。万感の声援。


 プリティエリアンは周囲にはち切れんばかりの笑顔で手を振りながら、今日もまたいずこかへと飛び立っていく。

 目にした人々の胸に感動だけを残し――


 彼女は魔法少女プリティエリアン。

 地球の平和を守るため、小さな身体ひとつで悪の結社と対峙する。

 今は日本――いや人類すべての、希望の光である。



◇◇◇



 魔法少女の飛び去った近くの路地裏で、ひとりのおっさんが吐いていた。


 彼の名前は、望月もちづき アキラ。

 よれよれのスーツに無精ひげ、猫背で眼精疲労、ついでに腰痛持ちの36歳。独身、彼女歴なし。現在無職の崖っぷち。


 なにを隠そう、魔法少女プリティエリアンの正体中身である。


「おいおい、アキ。汚っちゃないなぁ。仮にも人類の希望、プリティエリアンともあろう者が」


 アキラの周囲をふよふよ漂っているのは、うさ耳の生えた空飛ぶ毛玉、魔法少女のサポートキャラのラビだ。


「俺はアキラだ、アキじゃねぇ! 誰が! 誰が好き好んで――!」


 威勢よく叫んでから――アキラのテンションは一気にだだ下がった。


「なにが悲しくて36にもなって魔法少女なんか……うっわ、すんげー泣けてくる」


 涙目どころか男泣きだ。


 どうしてこうなった。


 なにが原因かは一目瞭然だったが、事の発端は一ヶ月前だ。

 愚痴りながら会社からの帰路についていた、アキラの前にこのラビ――いや、外宇宙生命体が現われたことに端を発する。

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