July 14

あの酒井亜希子が、ぼくに、初恋だって?

信じられない!!


「うん… 先輩が信じられないってのもわかります。

だって、あっこの先輩に対する態度見てると、逆に嫌ってるんじゃないかって思うくらいだもん」

「…そっ、そうだよな。酒井の態度。ぼくもてっきり、嫌われてると思ってたから…」

「そうなんですよね~。

あっこ自身も、どうして甲斐先輩にこんな、つっけんどんな態度とるのか、わからないって言ってたし」

「でも… 高1で初恋なんて、遅すぎない?」


いや…

自分も初恋、今(高2)なんだけど・・・


心の中でツッコミを入れながら、ぼくは思わず訊いてしまう。

大きくうなづきながら、篠倉は答えた。


「そりゃ、幼稚園の頃とかに、クラスの男の子とか、隣に住んでる幼馴染とか、好きになった人はいたかもしれませんよ。わたしの初恋も小学2年の担任の先生だったし。

でも、中学や高校になってからの恋愛って、子供の頃とは、その… いろいろと事情が違うじゃないですか。生々しいっていうか、、、」

「…」

「あっこって恋に関してはウブで、先輩を好きだって気持ちを、どう表現していいかわからないみたいで…

でも彼女、気が強くて負けず嫌いだから、気持ちを悟られまいとして、逆に邪険な態度とっちゃって。その度にどんどん先輩から嫌われるのがわかるから、すっごい悩んでたんです」

「…」

「だから、先輩が入院したのを機に… あっ。ごめんなさい。別に病気になってよかったってわけじゃないんです」

「い、いいよ。それで?」

「ありがとうございます。

それで、先輩の世話をあっこがすれば、少しは仲よくなれるかもって思って、アドバイスしたんです。他の1年もみんな協力してくれたんだけど、、、

まあ、宮沢先輩の言う通り、これって、ポイント稼ぎなんですけどね」

「…」

「でも、宮沢先輩とかはそれが気に入らなかったみたい。

宮沢先輩ももしかして、甲斐先輩の事好きなんじゃないかなぁ。じゃないとあんな事言わないでしょ、ふつう」

「…」


篠倉の話を、ぼくは黙って聞いていた。

いや。

心の中で、今まで酒井との間であったいろんな出来事を、ものすごいスピードで組み替えていた。


やつがぼくの事を避けたり邪険にしたりしたのは、『好き』という気持ちを悟られないため。

クラブノートを持ってくるのは、イヤイヤなんかじゃなく、むしろぼくとの仲を深めたいため。


『先輩、あたしが来るの、イヤでしょ?』


って言ってたのは、ぼくの所へ来るのがイヤってわけじゃなくて、ぼくに嫌われてると思っていたから、遠慮していたって事か。


コペルニクス的転回どころじゃない。

今までのなにもかもが、180°ひっくり返る気分。


「じ、じゃあ… 酒井ががバラを持ってきたりしたのは」


今まで疑問に思っていた事を、篠倉に訊いてみる。

酒井がバラの花束を持ってきた日、ぼくの中ではどうしても、『酒井亜希子』と『バラ』が、うまく結びつかなかったからだ。


「ああ。それもわたしのアドバイスです。彼女んのお庭、バラがとっても綺麗なんですよ。

ほら。あっこって、どちらかというとボーイッシュじゃないですか。胸は大きいんですけどね。

だから、女の子っぽい私服姿でお花持って行ってあげれば、喜んでもらえて、先輩の見る目も変わるんじゃないかなって思って。

先輩、どうでした? あざと過ぎました?」

「い、いや。嬉しかったけど…」

「でもあっこ、『全然喜んでくれなかった』って、落ち込んでましたよ」

「それは… ぼくがバラのお礼言うの忘れてた… って言うか、私服姿の酒井が可愛くて、思わず見とれちゃったから」

「うそっ? あっこが聞いたら喜びます!」


思わず篠倉から笑顔がこぼれた。

どうして、そんな風に言ってしまったんだろ?


「先輩からもらったメアドと携帯番号を書いたメモ。あっこは大事そうにしてたんですよ」

「ああ。あれ…」


iPhoneを買ってもらった後、酒井に書いて渡したメモの事を思い出す。

あいつは興味なさそうに、見もせずに仕舞ってたけど、そんな事なかったのか。


「ほんとは誰にも教えたくなかったみたいだけど、それってやっぱり不自然じゃないですか。だから渋々みんなに教えて。わたしもそこで先輩のメアド知ったんです」

「…そうなんだ」

「先輩から借りたTシャツや、『エースをねらえ!』の話も聞きました。ローズティでお茶会もしたんでしょ。なんか、ほんわかしてて、いいですよね~。

でも、せっかくふたりが少しずつ仲良くなってきたのに、あの騒ぎでなにもかもぶち壊しです」

「『騒ぎ』って?」


つづく

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