July 6

「おまえが持ってるあさみさんの画像、消しとけよ」

「ああ、これか? 最近はアイドルだってパンツ見せまくってるし、このくらいいいじゃん」

「おまえ、あさみさんには興味ないんだろ? それとも…」

「わ~ったよ。まあ、この程度じゃ抜けね~し、、、 消しとくよ」

「絶対だぞ!」

「ああ」

「嘘つくなよ!」


重ねて念を押す。

あさみさんのけがれた画像をまさるが持っていると思うと、不愉快でならなかった。


「うっせ~なぁ… ほら、消したぞ。これで文句ねぇだろ」


これみよがしにiPhoneの画面をこちらに向けて、まさるは削除ボタンを押す。

そしてリンゴをかじりながら、『じゃあな』と手を挙げて、部屋を出ていった。

そんな彼を、ぼくは黙ったまま見送った。


…なんだろう。

この、じわじわとこみ上げてくる敗北感。


『おまえの初恋なんてただの自己満じゃん』


まさるの言葉が、ぼくの胸に突き刺さっていた。


本当はぼくだって、薄々感じていた。

萩野あさみへの恋愛は、本当の恋と違うんじゃないかと。

生身の女性への恋愛とは、違うんじゃないかと…


『萩野あさみ』という女性を通して、自分が創り上げた偶像アイドルに、ぼくは恋してるんじゃないのか、と。

生身の彼女を、ぼくは見ていない、、、


いや。


見たくないんじゃないのか。と。


この初恋が汚されるのが怖い。

美しい虚像の皮を剥がされて、汚い真実を引きずり出されるのが怖い。

それが何人なんぴとであっても…

例え、萩野さん自身であったとしてもだ。


だから、ヤツの言葉に、余計に腹が立つんだ。


「くそっ!」


まさるから送られたあさみさんの画像をできるだけ見ない様にしながら、ぼくはゴミ箱のアイコンを押した。


『写真を削除』


赤いボタンが表示され、ぼくはそのボタンを押す・・・

寸前で指が止まった。


長い事考え、躊躇ためらいながら『キャンセル』ボタンを押したぼくは、もう一度その画像に目をやった。


あさみさんの笑顔。


こうしてデジタルデータとして表示されると、なんだか客観的に彼女を見れる気がする。

自分の目で見ていた時は、あさみさんはこの上なく神々しく、美しく輝いていたが、こうして画面で見てみると、そこらに転がっているアイドル写真と変わらない。

きっとそれは、まさるの写真の腕が悪いんだ。

きっとそうさ…


そう自分を納得させながら、見ようかどうか迷った末、ぼくは次の画像を表示した。


あさみさんの、スカートのなか…


どんなに見たくても見ない様に・・・

見ちゃいけないと思って、必死に我慢していた、あさみさんのスカートの奥の部分。

それをまさるは、いとも簡単に写してしまった。

口惜しい。


ぼくのあさみさんを、まさるはそこらの女子高生やアイドルと同じレベルまで、引きずり降ろしたんだ。

憤りつつも気がつけば、ぼくの指は画面の彼女のスカートをなぞり、二本の指で、まるではしたなく脚を広げる様に、画像を拡大していた。

指の動きに従って、あさみさんの下半身がグググッと大きくなり、スカートの奥のパンツが拡大されてしまう。


まさるのやつ…

最大解像度で撮ってやがる。

その部分は、ステップを昇る脚の動きに沿って複雑なしわを作り、淫靡ななまめかしさを漂わせていた。


なんていやらしい、あさみさんの… パンツ。


滑らかな曲線を描いたお尻と太ももの間にできた線が、妙にエロっぽい。

この線の先の、パンツの奥に、あさみさんのいちばん大事な秘密が隠されているんだ。

見たい…


ドクンと脈打って、ぼくの下半身に血液が集まってきたのがわかった。


『こんなもんで興奮してたまるか!』


逆巻く劣情を、ぼくは必死でこらえた。

だが、そんな薄っぺらな理性をあざ笑うかの様に、下半身はどんどん膨らんでいく。


くそっ。

なんでこんなものを見てしまうんだ。

見たくなってしまうんだ!


あさみさんの腰にまとわりつく、その薄い布切れを見る度に、胸もうずくが下半身もうずく。

まるで、まさるの手のひらで踊らされてる様で、いまいましいのに、脳の奥底に潜んでいるぼくの本能は、昂まってくる。


結果的にぼくは、自らの五本指で、あさみさんを汚れなき清らかな恋の女神から、ただの性的対象物に貶めてしまった。


つづく

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