July 5

『決定的瞬間!』


メッセージとともに添付されたその画像を見て、今度こそぼくの心臓は止まった。


バスのステップを駆け上がる、あさみさんの後ろ姿。

カメラはそれをローアングルから撮っていた。

ヒラヒラとひるがえるミニのプリーツスカートと、長く伸びた脚。

そして…


スカートの奥に見える白いパンツ。

あさみさんの、パンツ。


「スゲーだろ。あさみちゃんの後からバスに乗る時、ノーファインダーで撮って、バッチリフレーミング決まったんだ。オレって天才?」


「な… なんで…」


iPhoneを握る手がプルプル震える。


「なんでこんなの撮るんだよ! ふざけんなよっ!」


思わずスマホを振りかざし、力いっぱい投げつけたくなった衝動を、ぼくは辛うじて抑えた。

まさるは一瞬ひるんだが、すぐに怪訝そうな顔をした。


「なんでって… おまえ嬉しくないのか? おまえの初恋の女神様のパンチラだぞ、、、ってか、モロパンだぞ」

「おまえ、マジで言ってんのか? こんなんでぼくが喜ぶと」

「具が見える方がよかったか?」

「バカ言うなっ! これって盗撮だぞ! 犯罪だぞ!!」


大声を出したぼくを、『想定済み』とでもいうかの様な涼しい顔で受け流し、まさるは諭す様に言った。


「どんな女だって、スカートの下にはパンツはいてるって事さ」

「は? なにそれ? わけわかんね」

「綺麗事を言うなって事だよ。

おまえが女神様みたいに崇めてるあさみちゃんだって、しょせんただの女子高生だって事。

ヘもコクし臭っせぇクソだってするし、あそこに男のモノ入れてよがり声だっ…」


そう言いかけたまさるの頬に、ぼくの拳骨がめり込んだ。

びっくりして目をむいたまさるは、頬を押さえる。


「っつ、、、 グーで殴るか? ふつー」

「謝れよ!」

「なんでだ?」

「ぼくの…」

「初恋の女神様を穢した罰、ってか? オレがあさみちゃんとセックスしたら謝ってやるよ。『おまえの女神様を寝取って悪かったな』ってよ」


もう一発拳骨が跳んできたのを、まさるはヒョイと避けて笑う。

的を失したこぶしは空を切り、ぼくは思わずよろけてひざをついた。

そんなぼくを、まさるは上から見下げる様に言う。


「冗談だよ。おまえの女神様には全然興味ねぇって。でもいい加減、妄想で相手を美化しまくんの、やめろよな」

「うるさい! ぼくの事には干渉すんなって言っただろ!」

「まあ、おまえの勝手だけど… 親友兼従兄弟として、ひとこと言いたかったんだよ」

「そんなのいらないよ!」

「じゃあおまえは、あさみちゃんのパンツ、見たくないのか?」

「見たくない!」

「おっぱいとか触りたいって思わね~のか?」

「思わない!」

「あんなにいいものなのに? プルプルして弾力があって、もっちりと手に吸いつく感じで、、、 あさみちゃんのおっぱいもメッチャ気持ちいいんじゃねぇか?」

「触りたくないってば!」

「嘘だろ~。好きな女のハダカを見たくないとか、触りたくないとか、そんなのあるわけね~だろ」

「だから、そんな事を考えない恋もあるんだよ。おまえには永久にわかんないだろうけど」

「ああ。わかんね~な。そんな空想の恋なんて」

「空想って…」

「そろそろ、恋に恋する乙女みたいな状態から抜け出せよ。おまえのその初恋なんて、ただの自己満じゃん。ほんとの恋じゃねえだろ。

好きになったらドンとぶつかってゲットして、キスしてエッチして、その女と一生いっしょにいたいって思うのが、ほんとじゃね~のか?」

「恋愛観なんて人それぞれなんだよ。なんでもおまえといっしょにすんな!」

「でもオレは、おまえにそれをわからせてやりたくて、ガッコ遅刻してまで写真撮ってきたんだぜ」

「それが余計なお世話ってんだよ!」

「まあ… オレのしたことに、そのうちおまえも感謝するって」

「しないよ。一生!」

「怖え~、、、まあいいや。その画像は保存するなり消すなり好きにしろよ。もう撮らねえから」

「当たりまえだろ!」

「悪かったな。そんなに怒るなよ。病気が悪化すんぞ」

「悪化させる様な事してるの、おまえだろ」

「もうしねぇから、安心しなよ」

「ほんとだな」

「ああ」


まさるはそう言うと、テーブルに置いてあるリンゴを手に取って、無造作にTシャツでこすると、ひと口かじって言う。

「リンゴもらっていいか?」

「もう食べてるだろ」

「はは。このリンゴがあさみちゃんだったら、オレ殺されてるかもな」

「あさみさんは食べ物じゃないから」

「ま、そうだな。あさみちゃんの事はオレも応援してっから。頑張れよ」

「おまえの応援なんてロクな事ないから、いらないよ」

「わかったよ。じゃあ生暖かく見守ってっから。じゃな」

「まさる!」


部屋を手でいこうとするヤツを、ぼくは呼び止める。


つづく

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