june 9

 翌週、酒井亜希子は姿を見せなかった。

今まで週末にはほぼ、顔を見せていたのに…

こないだの『パンツ事件』を気にして、来られないのか?

それとも、まさか、、、

彼女を『おかず』にしているのを気づかれてしまって、顔も見たくないくらいにぼくの事が嫌いになったとか…


 なんだか落ち着かない。

来るべき人が来ないのが、こんなに不安な事だなんて。

つっかえ棒をはずされた様な、グラグラした気持ち。

そう言えば以前、酒井はこちらに来る前にいったん家に帰って、着替えしてきた事があった。その時は私服姿で、バラの花束を持ってきてくれたっけ。

もしかして今日もそのパターンで、夕方遅くになって来るのかもしれない。


だけど、どんなに待っていても、酒井は来なかった。

廊下を歩く足音が聞こえる度、ぼくはドキッとしてドアの方を凝視する。だけど、そのドアが開くことはなかった。

たまりかねてiPhoneを手に取り、酒井のメールアドレスをタップする。


『今日は来なかったね。学校の様子はどう?』


そう入力し、送信ボタンを押… そうとして、ぼくの指は止まった。


もし、酒井に嫌われてるんだったら、返信もないだろう。

それは辛い。

いつまでも来ないメッセを待つのは、きっと気が滅入るだろう。

酒井がぼくの事を好きじゃないってのは、薄々感じているけど、はっきりわかる形でそれを思い知らされるのはイヤだ。


「はぁ…」


メッセを削除したぼくは、横になって天井を見つめた。

どうしてあいつの事で、こんなに気持ちがざわつくんだろう?

あんなヤツ、どうでもいいじゃないか。

ぼくには萩野さんがいるんだし…


そうは思ってみても、酒井の事が気にかかる。


憂鬱な気持ちを引きずったまま、その夜は寝苦しく、訳のわからない悪夢をたくさん見た。




「先輩すみません。もうすぐ夏の県大会なんで、昨日は遅くまで練習してて、面会時間に間に合わなくて…」


 翌日の午後、『パンツ事件』の事などケロリと忘れた様子で、酒井は私服姿で機嫌よく現れた。

手にはとうのバッグとバラの花束を持っていて、謝る様に軽く頭に手を当てる。


な~んだ…

昨夜はあんなに悩んだのに…

拍子抜けしたけど、いつもと変わらない酒井… いや、いつも以上に可愛い彼女に、ぼくはホッとしたと同時に、少しドキッとした。


今日の酒井は、とっても鮮やかで印象的だった。

前のショーパン姿より更に涼しげな、花柄ミニ丈のキャミソールワンピ。

頭にもレースのカチューシャなんかしてて、いつものボーイッシュな彼女が嘘の様な変身っぷり。

ワンピースの薄い生地が腰のあたりでふわふわ揺れて、とってもエロ可愛く、ドギマギしてしまう。


「な、なんか、今日は夏っぽいカッコだね」

「たまにはイメチェンしてみようかと… 変ですか?」

「いや… そんな事ないよ。に、似合うと思う」

「…」


その言葉に、酒井はわずかにうつむいて唇を緩め、頬を染める。


なんか…

余計に可愛いじゃないか。

やっぱりこいつも女だったんだな~。


「バ、バラ… 取り替えときますね」


はにかみながらそう言うと、酒井は窓辺のしおれかけたバラを、新しいものに取り替えた。


「また、バラ持ってきてくれたんだ」

「今日のはマリーローズって言うんです。あ、それから今日はお茶も持ってきたんですよ。ローズティです」

「もしかして、おばあちゃん特製の?」

「そうですよ。飲んでみます?」

「うん」


電気ポットに水を汲んできた酒井は、お湯が沸く間、籐のバッグからお茶の入った缶とティーポットを取り出し、ローズティの葉を入れる。

電気ポットのサインが『保温』になるのを待って、テーブルにふたつのティーカップを並べ、沸きたてのお湯を少しだけ注いだ。


 その様子を眺めながら、ぼくはつい、あっこの胸に目がいってしまった。

今にも切れそうな、細いストラップで支えられたキャミソールワンピの胸元は、大きく開いて危うげで、かがんだりしゃがんだりした拍子に、胸の谷間がブラのあたりまで見えてしまう。


思ったより大きな胸。

『Cカップくらいじゃね?』

と部活の男どもは言い合ってたけど、それ以上あるかも。

ベッドに座っているぼくのすぐ隣で、酒井はうつむきながらコポコポとお茶を入れはじめた。

ぼくのすぐ目の前に、酒井亜希子のおっぱいが存在る。

圧倒的な肉体の存在感。

彼女のささいな仕草で、それはフルフルと揺れたりたわんだりと、微妙で悩ましい動きをみせる。

こないだ妄想したものが、現実になってる。

その眺めに、ぼくの下半身は例によって、ムクムクと起動してしまった。


つづく

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