第3話

「大魔法使いさま、ついに5月の女王が生まれました」

食べ物の力で少し落ち着きを取り戻した占星術師は、一番大切なことを最初に伝えました。

「やはりそうであったか。サラマンダー火蜥蜴の輝きにはわしも気がついておった。最果ての星読みよ、未来を知る賢者よ、くわしく教えておくれ。いったい星々は何を告げておるのか」

占星術師ほどではありませんが、大魔法使いにも星のわずかな変化が見えていました。それで4日目の真昼の太陽が傾く頃に、きっと占星術師が秘密の家にやって来るだろうと考えて、気付け薬など迎えの準備をしていたのです。

「5月の女王が初めて人の言葉をつむぐまで」と、占星術師はいいました。

「かつての印を持って生まれたひとりの男から、ひとつの特別な贈り物を最初にもらわねばなりません」占星術師は星読みを続けます。大魔法使いは黙って聞いていました。

「それがなければ恐ろしいいくさがみ戦神の祝福を最初に受けてしまうことになりますので、女王はやがて多くの国々を滅ぼす恐怖の大王として、大人になってしまうでしょう」

占星術師が大急ぎでやって来た理由はそういうことだったのです。

さて、本当は未来というものがかなり決まっていて、ちょっとした行動や変化が後々に大きな影響を及ぼすことを知っている人はごくわずかです。そして、そのような変化も必ず兆しとなってどこかにあらわれます。

ただ、どれが本当の兆しなのかそうでないのかを知るためには、私たちの学校では決して教わらない秘密をきちんと学ぶ必要があります。そして、占星術師は星読みの学校で、大魔法使いは魔法の学校で、そのような秘密を深く学んでいました。

「して、その男のかつての印とはどのようなもので、一体どこに住んでおるのだろう?」

大魔法使いはもちろん占星術師の力を信じていました。星読みの世界でも上手な者と下手な者がいます。それは他のどんな職業とも同じことです。それに、サラマンダー火蜥蜴の輝きに気づいた者は、星読み全体からみてもほんのわずかに限られていました。ですから、この占星術師は上手な星読みのひとりに数えられるという次第です。

「どのような印であるか、今はあいまいにしか分かりません。もしかしたら耳の後ろに三つのほくろを持つ者であるのかも知れませんし、赤い小さな蜥蜴を2匹飼っているだけの者であるかも知れません。しかしその場所ははっきりと星読むことができます。ここから暁の方に歩いて7日、さらに真昼の太陽の方へと舟でゆられて岸沿いに2日、岸から見える7つめの大きな森を越えた小さな村の中。はたしてそこに、かつての印を持つ男は住んでいます」

占星術師は自分が分かることと分からないことをきちんと伝えました。星読みにとって、自分がただの嘘つきであると誤解されないためにも、それは大切なことでした。

じっと静かに話を聞いていた大魔法使いはしばらく何かを考えこんでいましたが、

「やはり、わしらが探しに行かねばなるまい」

と、いいました。運命の旅の始まりです。いよいよそこで、大魔法使いは元弟子である占星術師に自分の本当の名前を教えることにしました。魔法使いが本当の名前を誰かに打ち明けることは、自分の運命をその者と共にし、その命をかけて目的を果たす誓いを立てることでした。それは今でも星読みや魔法使いの間に伝わる秘密のひとつです。

ところで、遠い東南アジアのとつくに外国では、このような名前の秘密が人々の間で習慣としてこっそりと守られています。ですので、あなたがいつか東南アジアに旅行に出かけ、もしもその国の人たちがいつもニックネームで呼びあうようでしたら、それは名前の秘密が守られているという証拠です。


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