第2話
四つ目と同じくヘトヘトになっていた占星術師がヨロヨロとよろめきながら、最後の力を振り絞ってトネリコ木の扉をノックしようとした時、音もなくその扉は開かれました。
そして占星術師が見つめるその先には、にっこりと笑みをたたえた大魔法使いが立っていました。
「おお、やはり占星術師であったか。その後ろにはかの四つ目までが倒れそうになっておる」
そういうやいなや、大魔法使いはさっと杖をひとふりしました。杖の頭にあるこぶを追いかけるようにしてかすかな光が流れたかと思うと、たちまち四つ目は目を輝かせて元気になりました。その証拠に四つ目はブルルとひと鳴きし、ひとりで勝手に秘密の家の裏庭にある小さな花咲き泉まで水を飲みに行ってしまいましたから。そうです、四つ目は元々は大魔法使いの家にいた馬だったのです。
「あい変わらず、賢い馬じゃ」
大魔法使いはそういって、気を失ってしまいそうになっている占星術師をだきかかえました。
「人間はあの馬のようにはいかん」
さて、それからはあらかじめ用意しておいた気付け薬をほんの2滴ほど占星術師の口にたらし、長く走り続けたせいですっかりずれてしまった胃袋をもとの場所に戻し、香油に浸した包帯でお腹を縛ってしばらく横に休ませました。
「胃袋がまたずれてしまわないようにの」
大魔法使いは優しい声をひとことかけ、秘密の家の台所で食事の準備に取りかかりました。ほどなくして、大かまどからは食べ物の焼けた美味しそうな匂いがただよってきました。それでようやく占星術師は自分のお腹が減っていることに気づきました。お腹が減っていることに気がついたくらいなら、もう大丈夫です。大魔法使いは占星術師に、発酵バターと粉シナモンと砂糖をたっぷり塗りこんだライ麦のパンを、温めたヤギのミルクにひたして食べさせました。粉シナモンと砂糖はいくぶんミルクに溶けてしまいましたが、占星術師の疲れた胃袋にはその方が良いのです。
占星術師は黙って半分ほどその柔らかで甘いパンを食べました。
ミルクに食べ物をひたす時は、中で崩れてしまう直前に口に入れるのが最も美味しいのです。実はこれは、遠い西のとつくに外国では広く皆に知られていることです。
さて、占星術師は今すぐにでも大魔法使いと話をしたかったのですが、全速力の四つ目に乗ってここにたどり着くまで、まる4日間ほんの少しも休むことがなかったのです。ですから、ぎゅっと結んだ口を柔らかくして喉から声を出すためには、もう少しばかり食べ物の力が必要でした。
そう考えると、まったくもって今回の幸運の呪文にはしっかりと効き目があったことが分かるというものです。
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