第4話 ミツルの環境
日向の家。
父親は荷運びの仕事をしているらしい。トラックという鉄の荷車を動かし、半日で何百kmという距離を走り、荷を届ける。母親は売り子だ。スーパーというよろず屋で、商いに励んでいる。
ミツルを連れて日向の家へ帰ると、母親が夕食の支度をしていた。
「ただいまー。ミツル連れてきたよー。」
「あら!上がってもらって!」
日向には食事という行為は必要ない。魔族も神も、精神生命体である。そもそも死ぬという事がない。あるのは魂の循環だけである。
それでも日向は、親と食事をしている。日向という少女の過去について、色々と語る親から情報を得る為だ。まぁ、同じ話しの繰り返しが多いのだが…
「ミツル君、良かったらご飯たべてかない?もう作っちゃったし。」
「え、じゃあ、せっかくなんで、頂いて帰ります。」
日向の母親は、入院中の見舞いに対する感謝と、ミツルの父親の話しをしている。どうやらミツルの父親は、警察官という町を巡回する警備兵らしい。母親が死んで2年になるという情報も聞かれた。
父親が帰宅した。それに合わせて夕食がスタートする。
日向が入院する以前は、夕食時に麦酒を飲んでいたようだが、今では酒を絶っている。願掛けの様なものだろうか、退院した今でも続けていた。神に祈ったようだが、残念だったな。今では魔族の器だ。
魔族の私が言うのも何だが、神に祈ったところで結果が変わるものでは無い。魂の成長を見て、試練を与えるのが神というものだ。努力と運、それが結果の全てである。今回の日向の場合、結果は死だ。魂は既に輪廻の輪にいる。この人間達は、魔族が書き換えた夢物語に存在しているに過ぎない。私の意思一つで、日向という存在は消えるのだ。せいぜい今のうちに夢を見るがいい。
今日得た情報は他に、日向とミツルが付き合って三年、身体の関係は無いらしい 。日向は食事を作るのは苦手で、ミツルに弁当という携帯食を作ろうとして失敗した。学問に関しては、日向は優秀でミツルは大したことない。日向はミツルに指導していたらしい。ミツルが日向を家まで無事に送り届けるという理念は、父親の影響のようだ…といったところか。
夕食が終わると、ミツルは帰って行く。玄関先まで見送ると、ミツルは辺りを見回し、口を吸って帰った。
安河内は部屋を改装させている。どうやらここは安河内の所有のようだ。住む者が居ないため、美奈を誘った男達が利用していたらしい。
血の跡を消し、匂いを消して、男達の痕跡の全てを消した。改装が終わる頃、警察という者が来て、何やら話をしている。
警察は男達の人相の写しを見せ、
「この男達が、この部屋に出入りしていた情報がある。心当たりは無いですか?」
と聞いてきた。
「私はこの地に来たばかりで、知り合いは居ない。」
そう答えると、安河内が話に入って来た。
「ここはウチの物件でして、しばらく空き部屋だったのですが、ようやく入居者が決まりまして…」
警察は、人相の写しを安河内にも見せた。
「私も普段ここにはおりませんので、なかなか管理が行き届かない状態です。ひょっとしたら、空き部屋だと知って、勝手に利用されていたのかも知れませんが、面識はごさいませんねぇ…」
改装に来ていた者達にも一通り聞いているが、知っている者は居なかった。
美奈は、当然顔を見ているはずである。だが顔形に興味がなく、魂しか見ていないので、本気で覚えてないのだ。警察と業者が帰った後に、
「美奈様、あの者達を壊されたのですか?」
「破壊や殺戮など、星の数程している。一々顔など覚えておるか。」
といった具合である。
それから安河内は、テレビの使い方などを美奈に説明する。ニュースや情報番組のこと、多様なチャンネルがあることなど…
最後に安河内は、美奈に鉄の板を渡した。
「これはスマホという連絡道具でございます。何かございましたら、ここをこうして…こうすると…」
などと板を触っていると、もう一枚の板が音を出した。
「これで繋がりました。耳に当ててみて下さい。」
「なるほどな。ヤスの声が聞こえる。そちらにも私の声が聞こえるのか?」
「勿論でございます。例え地の果てに居ようとも、これで会話が出来ます。」
「わかった。」
「ただし、これらの物は、電気というマナの力で動いております。電気がなくなりますと、効果がありません。壁にあるこれに、この紐を繋いで…これで電気を注入致します。」
「私のマナでは動かないのか?」
「はい。この電気というマナだけでございます。」
「わかった。では、マナが切れぬように注意しよう。」
「美奈様、ここでわたくしからお願いがございます。」
「なんじゃ、言うてみい。」
「現界人の中には、魔族にも劣る存在価値の無い者がおります。わたくしの見極めにて選定した者を 壊して頂けませんか?」
「なるほどな。確かに今の現界は腐っておる。易い事だ。憂さ晴らしくらいにはなろう。」
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