第3話 情報収集

「ミツル、君?」

「ん?どうしたの、ひな。」

『ひな?日向のことを愛称で呼ぶのか…』

「ずっと、お見舞いに来てくれてたんでしょ?私、入院中の記憶が曖昧で…よく思い出せないの。」

「え?まさか、俺の事も忘れたり?」

「名前は、覚えてる…けど…」

「マヂか…まぁ、ミツル君なんて呼ばれたの、入学したての頃以来だもんな…よし。じゃあ説明してあげる。」

「うん。お願いします。」

「よそよそしいなぁ…俺はミツル。サッカー部、一応エースストライカー、そしてひなはサッカー部のマネージャー兼俺の彼女。」

「そう。私は、なんて呼んでたの?」

「ミツル。そして、部活が終わったら、俺がひなん家まで送って帰るのが日課。まぁ、彼氏としては、無事に送り届けるのは義務みたいなもんだからね。」

「そっか。じゃあ…ねぇミツル、今日部活は?」

「を!なんか、いい感じ!それがさぁ、今話題のグループってのが、一応サッカー部なんだ…まぁ、部活には滅多に来ないけど。それで、コーチと顧問が父兄の対応するみたいで、今日は休みだ。」

「そうなんだ。じゃあ、一緒に帰る?親もミツルの顔見たいって言ってるし。」

「オケ。いいよ。一緒に帰ろ。」

『とりあえずこのミツルという人間をキープしておこう。日向の親と合わせた時の反応も見たい。有象無象もそのうち利用価値があるだろう。もうしばらくは、ココに馴染む必要があるな。』



美奈は、部屋にある色々な箱を触っている。

棺桶サイズの箱は、立てて置かれてあり、扉が付いているようだ。無造作に開けてみると、中は冷気が溢れており、鉄の筒が何本も入っている。

『魔道具の類いか?』

テーブルには手のひらサイズの箱があり、丸い突起が幾つもある。グニグニと握っていると、壁の額縁が光を放ち、絵が浮かんだ。その絵は生きているかのように動き、勝手に喋っている。その絵には、先程棺桶に入っていた鉄の筒が描いてあり、爪で引っ掻くと穴が開く仕組みらしい。美味そうに飲んでいるので、男が出した飲み物の類いなのだろう。絵に向かって質問してみるが、絵が変わり、音に合わせて祝詞のようなモノを唱えている男達。余りに耳障りで、こちらの問いにも答えないので、殴って黙らせた。どうやら使えそうなのは、あの棺桶くらいしか無さそうだ。

美奈の現界のイメージは、およそ1500年前のものだった。力こそ全ての世界で、それなりの強者もいた。己を磨き、日々強さを求めて切磋琢磨する人間の中には、見所のある者もいた。

「何処かに殺しがいのある奴、居ないもんかね…」


部屋をノックする音がする。人間のようだが、少し気配が違う。魔族か?

美奈は誰何もせず扉を開ける。用心など無縁だった。何者が入って来ようが、敵対するなら壊せばいい。それだけのことだ。

「あのー、もしや、カーリー様ではありませんか?」

これには流石に驚いた。まさか自分の正体を看破する者が居ようとは!

「お前は?」

「わたくし、以前カーリー様の下におりました、天使にございます。」

「ふーん、天使など数え切れぬ程おる。一々覚えてはおらん。」

「まぁ、わたくしも末端の者ですので…今では堕落して現界におります。安河内とお呼び下さいませ。」

「そのヤスが何しに来た?」

「血の匂いに惹かれて。」

「なるほどな。私の配下だったのなら、わからぬでもない。」

「こちらへは、いつ?」

「来たばかりだ。お前、こんな腐った世界に、よく居るなぁ。」

「扱い方次第で、住みやすい環境になるのですよ。この世界の裏側…とでも言いますか、悪しき魂が寄ってくる所がございます。」

「ほぅ、お前詳しそうだな。ヤス、現界に居る間、私の下で働かぬか?」

「喜んで、お仕え致します。カーリー様。」

「こちらでは美奈と呼べ。」

「わかりました。美奈様、何なりと申し付け下さいませ。」

「まずは文明を教えろ。見た事ないモノばかりだ。それと、情報を集めたい。何か良い手はあるか?」

「情報収集でしたら、そこにある…え?美奈様、これは、どうされました?」

「ん?額縁か?うるさいから殴って黙らせた。」

「あ、そ、そうですか…これはテレビという、情報を教えてくれる道具でございます。」

「じゃが、私が聞いても、何も答えぬぞ!」

「はい。答えませんな。勝手に喋っているだけにございます。ですが、偶に欲しい情報を思いがけず聞くこともございます。馬鹿には出来ません。」

「そうか。では甦らせよ。」

「これは…手の施しようがないですな…代わりの物を用意致しましょう。」

「うむ。頼んだぞ。」

「そちらにありますのは、物を冷やす道具にございます。中には…このような飲み物や、食べ物を入れて保存致します。」

「おう。それに関しては、私は既に理解した。私をこの部屋に連れてきた男が、飲み物に媚薬を入れて出しおったからな。勝手に私に触れたので、ちょっと払ったら壊れおった。」

「なるほど。ようやく繋がりました。実はその媚薬、わたくしの作りし物にございます。この世界で生活するには、カネというものが必要不可欠です。そのカネを手に入れる為に、媚薬を作り、売っていたのですが、まさかそれを 美奈様に使う愚か者が居ようとは…」

「よい。済んだ事だ。私には効かぬしな。」

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