第4話 おもてなし

 安倍晴明だと!? 平安の時代に京の都に跋扈する妖怪をぶちのめしてた奴なのか、こいつは!!


「違う違う。阿倍野清明でおじゃる。大阪市阿倍野区の阿倍野と、晴れではなく清いほうでおじゃる。あんなまがいものといっしょにされては困るのでおじゃる」


『阿倍野清明』? こいついったい、何を言ってやがるんだ? 安倍晴明が正しいだろうがっ!


 俺はそう思いながら、疑いの眼を車いすの男に向ける。だが、車いすの男は何がおかしいのか、クックックと笑うばかりである。


 そして、俺からの疑いの眼も気にせずにまたもやひじ掛けについているパネルをポチポチといじり始めるのであった。


「おい、いったい、さっきから何をしているんだ?」


「客人をもてなそうと言っているのでおじゃる。ほれっ」


 清明がそう言うやいなや、白い床から縦20センチメートル、横30センチメートルの真っ黒な机が床から生えてくる。何か日本語がおかしい感じだが、俺が見た限りではそう表現するしかなかったのだ。


 そして、その真っ黒な机の上には、湯飲み茶わんと茶菓子として、これまた美味そうなモナカがちょっとした大きさの皿に乗せられていたわけだ。


 これは喰えってことなのか?


「フォッフォッフォ。そうでおじゃる。モナカはぬしの舌の好みに合わせてもらっているのでおじゃる。ほれほれ、はよう食べるのじゃ。モナカが湿って、台無しになってしまうのでおじゃる」


 くっ。どうやら通報されるわけではなさそうだ。しかも俺こと、胡麻衛門を歓待してくれる雰囲気を醸し出してやがる。


「薬の類は入ってないんだよな? 身体が痺れるとか、急に眠くなるとか……。俺は男に寝込みを襲われる趣味は持ち合わせていないからな!?」


「まったく……。何を怖気ついておるのでおじゃる。単独、マックス・ド・バーガーに忍び込んでおいて、度胸は人並み以上にあると思っていたが、所詮、見かけだおしでおじゃるのか?」


 くっ! 言わせておけば、俺を臆病者扱いってかっ! 良いだろう、良いだろう。その挑発、乗ってやるぜっ! 俺の尻は締まりが良いからな!? もし、俺の尻を掘ろうってのなら、身体が痺れていようが、てめえのイチモツをへし折ってやるからなっ!


 俺は怒りに脳みそが支配されかけていた。そして、真っ黒な机の上の皿に乗せられたモナカを右手で掴み、口の中に放り込むのである。


「ぶふぅーーー! ゲホッゲホッ!! おい、なんでモナカの中身がタルタルソースなんだよ!?」

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