第2話 見知らぬ空間

 俺は自分の眼を疑った。それもそうだろう。2段階認証による電子ロックを外し、大冷蔵庫の扉をいざ開いてみれば、そこから先に広がっていた空間は、ただの白い空間だったからである。


 高さ30メートルはあろうかという天井も、横に50メートル広がっている壁も白く、そんなただっぴろい空間には食材などは一切無い。


「どういうことだ? ここはどこか違う世界に繋がっているとでも言うのか!?」


 異常も異常。大冷蔵庫の中に広がっている空間はどう見ても、この店舗よりも明らかに広いのである。そんなわけがあるかと俺はつい何も考えずに大冷蔵庫の中へと足を踏み入れてしまった。


 それが勇み足だったことに俺は気づくが後の祭りであった。


 大冷蔵庫の扉がガチャコーンッ! というけたたましい音と共に、自動的に閉まってしまったのだ。慌てた俺はその扉を内側の方からガンガンッ! と殴り、さらには蹴り飛ばす。


 しかしだ。扉はびくともしない。


「閉じ込められた!? くそっ! 俺が一体、何をしたって言うんだっ!!」


 扉に向かって悪態をつく俺であったが、ここで慌てたところでどうにもならない。俺はヒーヒーフー、ヒーヒーフーと2度、深呼吸をし、とりあえずは落ち着くことにする。


「ふぅ……。どうやら、この白い空間の中には空気、いや、酸素は供給されているみたいだな。しっかし、賊を捕らえるにしては大業すぎる……」


 俺が最初に考えたことは、俺が手に入れたパスコードは、大冷蔵庫に繋がるモノではなく、実は別の空間に移送するためのダミーコードだったという線だ。


 今は2034年。元号が新しいモノに代わって、早15年が経とうとしている。その間に日本で産まれた天才が転移装置:通称『転移門ワープ・ゲート』となるモノを開発した。


 それが大冷蔵庫の扉に仕込まれていたと考えるほうが自然であると、不肖・胡麻衛門こと俺はそう思うわけである。


「フォッフォッフォ。当たらずも遠からずでおじゃる。ぬしはなかなかに勘がするどいのでおじゃるな。ようこそ、タルタロス・ルームへ……」

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