阿佐ヶ谷MidNight

中村 鐘

第1話私は誰でしょうね?

「あぁ…悪い夢だ…」

そんなことを思ったのは何度目だっただろう。自分の周りにいる人、物全てにノイズが入り目の前で消えていくんだ。

やるせない気持ちになって髪をかきむしる。

壁にかけられた時計を見るとちょうど5時を指していた。

すると部屋の外から

「刹入るぞ。」

短くそう断って部屋に入ってきたのは爺さんだった。

「じーちゃん…おはよ」

俺の様子を察したのか

「また悪い夢を見たんだな。」

「やっぱりわかるんだ」

「おいおい何年一緒にいたと思うんだ?大事な孫のことぐらいわかる。」

俺の爺さんは昔から考古学を専攻して教えていた大学教授でそこそこ有名な人物らしい。そのため家は広く常に服装、礼儀がきちんとしていた。

そんな爺さんが朝早くから何の用だろうと疑問に思い、

「ところでじーちゃんは何の用?こんなに朝早くに…」

慌ててベットから起き上がりながら訊ねると、

爺さんがやけに真剣な表情になった。

「まぁ、急くなちょっと席を借りるぞ。」

そう言いながら勉強机にある椅子を引っ張り出すとゆっくりと腰を下ろした。

二人の間に静寂が訪れた。

そもそも爺さんと二人で話すこともなかったし、爺さんとそこまで親しいわけではないのでそうなって仕方ない。

あぁ、喉が渇くな。

「じーちゃん、それで何の用?」

すると爺さんは、一点を見つめながら話し始めた。

「刹お前は私がこの生涯かけて何を専攻したか知っているな。じゃあ、なぜそれを専攻にしたのか知っているか?」

拍子抜けした内容だった。

もっと残酷な内容だと思っていた。

『お前はうちの正当な家系の人ではない』とか、もっと壮大な話かと思っていた。

「考古学だろ。詳しい理由はわからないが、ばあちゃんが昔理由を言っていた気がするけど覚えてないや」

「そうか、そこからだな。私は考古学を専攻はしていた。そうして行くと民謡学に行き着いたんだ…。そこにはなたくさんの物の怪いわゆる妖怪についての文献がたくさん書かれていたんだ。」

そう言いながら嬉しそうに目を細めて語る爺さん。

まだまだ話続ける。

「そこからだなと出会ったのも…。歯車は回るんだ。大小で繋がってゆっくりと…」

言い終わる前に爺ちゃんはゆっくり立ち上がった。

「いや、今はここまでにしておこう…後はお前が帰ってきたら話す。」

そう言って時計を指す爺ちゃん。そこには6時をゆうに回っている時計があった。

確かに自分の顔から血の気が引いて行く感覚があった。

「な…や…ヤベェ!ありがとう爺ちゃん!行ってくる!」

そう行って俺はあらかじめ準備していた制服とバックを掴んで部屋を出た。

…これは遅刻だな。そう思いながら。

____________________________________


部屋に残された私は孫を見送ると自分も部屋を出ようと立ち上がろうとした時。

「あら、良い子が育ってるじゃない。次はあの坊やの所にお世話になるのね。」

右後ろから声が聞こえた。

振り返ることなく私は答えた。

「そうなるかもな、その前にお前さんを封じるかもしれないぞ。」

すると次は左後ろから微笑が聞こえてきた。いや、ではない。

子供のおいたを受け入れるような相手を舐めきった声だった。

「無理ですよ。私を封じれる代物は現世にはありません。それにあなたの寿命的に難しいかもしませんし。」

そう言って肩に手を乗せてくる。白くて白魚のようだった。

「それはどうかな、自分が持ち込んだ厄介ごとだ。けじめはつける。」

そう言うと両手にはめられていた赤と青の指は笑うように淡く光った。

すると後ろ二人の気配も消えたので改めて立ち上がり部屋を出て、自室へ戻った。

手紙の書き出しはこれで良いかと考えながら。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

阿佐ヶ谷MidNight 中村 鐘 @nakamurasyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ