第7話 出涸らしの突入隊


「ふはは!任せよ!このアスフィア・リンドブルム・デール・ウルファ・シムクロティ・サドル様が立ち所に解決してやろう!」


「サドル様であれば立ち所ですぅ!」


「立ち所ですわぁ!」


 従者の女の子を二人連れた金髪の少年--サドル君は威勢良く宣言しました。


「くっ!私が絶好調なら!」


レモナ様、張り合わないでください。こっちまでアホだと思われます。


「久しぶりだなモモ!それにレモナ!」


「あ、はい、久しぶりです」


「ふん、喧しいのが来たわね!」


 教室に集まったのは攻略隊に参加していなかった下級生です。


「勢いばかりあっても功績なぞ得られませんぞ?サドル殿下?」


 また偉そうなのが来ました。

古い貴族はこういうのが多くて、うんざりしますね。


「サドル様に何を!」


「よい、抑えよ」


「はい……」


 サドル君が子分を下げました。


「従者がその始末ですか。これは先が思いやられますな殿下」


「女性に守られてよくそんな態度で--」


相手の貴族の従者も湧いて来ました。


「吠えるだけが取り柄とは!主人によく似ているな!」


 サドル君は吐き捨てます。


「何だとっ」


「先の攻略隊に入らなかった臆病者の癖によく言ったものだな、フュリアス!」


 それは貴方も同じもなんじゃ?


「っ、必要な準備を整えていたのですよ、戦いは始まる前に全て決まるのです」


「知らんのか?兵は拙速を尊ぶのだ!勉強が足りないな!」


 なら前の攻略隊に参加してないとおかしいような。


「くっ……口だけは達者なようだ」


 いや、言い負かされてませんからね。

雰囲気に騙されないでください。


「何やら賑やかですが、いかがなさいましたか?」


「教皇領のか、悪いがここは魔導国だ。お客様は安全な場所に--」


 また増えました、フリフリした白い服の子です。

彼女が噂の次期聖女でしょうか?


「魔導国で位が高かろうと国賓に値する聖女様に無礼は許されない!」


今度は騎士風の青年、また従者でしょうか。


……それにしても口だけは達者な人達をよくもまあ集めたものですね。


「やっぱり子供だけじゃーー」


 私がそう言いかけた時。


「埒が開かないわ!来なさい!」


 レモナ様は私の首根っこを掴んで、壇上へ上がりました。


 ガヤガヤとしている教室。このままだと誰も聞く耳を持ちそうにありません。


「《風霊よーその暴威を!》」


 レモナ様は自分の真上の天井を吹き飛ばしました。彼女に光が射します。


「えっ」


突然の事に、一斉にこちらへ目が向きました。


「いいかしら!いつまで下らない事を続けるつもり?」


「な、なんだと!たかが魔力が多いだけの問題児が!」


どこからか非難が。


「へぇ、この学校を辞めたいのね」


「はぁ!? 一体何を言って」


「私の父は校長なの。そんなのいくらでもできるわ!」


「流石に無理だと思いますよレモナ様」


「できるの!私が退学といったら死刑なの!」


退学と言って、処刑されるんですか…


「ともかく!馬鹿やってる暇があるなら戦闘の準備でもしなさい!」


「馬鹿に馬鹿といわれたくないぞ!」


 サドル君が馬鹿という言葉に反応して、飛び出して来ました、ああ面倒な。


「うっさいわ!馬鹿にバカって何がわるいの!」


「バーカ!バーカ!」


「うるさい!バーカ!馬鹿って言う奴が馬鹿よ!モモ!いってやりなさい!」


「そいつの味方をするのか!?モモ!」


「そうですね……サドル君も、レモナ様もお互いの主張は正しいです」


「そうだな!間違ってないよな!」


「そうね!間違ってないわ!」


 握手を交わす二人。

二人ともお利口さんでよかったです。


「じゃあ私たちが先陣を切るから!」


「ああ、お前に譲ろう!」


「えっ」


じゃあ?え?いつ先陣を決めるとかいう話をしたんですか?



◆◆◆◆◆◆◆◆




「行くわ!《風霊よ、その暴威を解き放て!》」


「はい!《氷霊よ!その息吹をここに!》」


 モモとレモナの魔術は混ざり合い、黄金と青の魔力光を纏った風は虚空塔の入り口へ殺到し、爆ぜた。


「やったか!?」


 強い輝き、それを後ろへ続く生徒達が固唾を飲んで見守る。


 光が晴れると、入り口で待ち構えていた肉の塊達は跡形も無くなっていた。


「おぉぉぉぉ!!」


歓声が上がる。


後退するモモ達の背後から続々と生徒達が突入していく。


「ふははは!一番槍はこのアスフィア・リンドブルム・デール・ウルファ・シムクロティ・サドル様が頂いたぁぁ!!」


「サドル様ぁぁ!!私も一番槍ですわぁ!!」


「一番ですぅ!!」


 功績を挙げる事を目的とした貴族達の子息は息を巻いて先行していった。


「調子さえ良かったら、一番前に行ってたのに!」


「まぁまぁ、私達はフーカさんをどうにか救出しないといけませんから。慎重に越した事はありません、彼女はどうせ無事でしょうし」


 今までの経験から、モモはフーカの無事を全く疑っていなかった。


「そろそろ私達も行きますか」


「そうね!早くしないと!(獲物がとられちゃうわ!)」


 レモナは腹いせに、とにかく暴れる事しか考えていなかった。


 動き出そうとした彼女達の目の前で門が変形し、奥から触手が伸びる。


「こんな低級な魔物!敵ではありませんわぁ!」


「よゆーですぅ!」


サドルの従者達はそれを軽く避け、魔術すら使わずに短剣で斬りふせる。


「ふはは!」


サドルは威勢良く杖を構え飛び込み、そして。


「この英雄たるアスフィア・リンドヴル--うわぁぁぁぁ」


 フルネームで名前を言おうとした為、詠唱が間に合わず、触手に引き摺られて行った。


「さ、サドル様ぁぁ!! ご一緒しますわぁぁぁ!!」


「どこでも一緒ですぅぅぅ!」


 従者二人はそれを見て自ら触手へ飛び込み、奥へと消えて行った。


「な、何をしてるんだあのアホども!」


「う、うわぁぁ!」


 他の先行した学生も流れてきた触手に捕縛され、塔に飲み込まれて行く。


「……慎重に越した事はありませんね」


「あんなのひどいわ!」


「そんな事言われても……」


「あれじゃあ盾にならないじゃない!」


「レモナ様の方が酷いですよ?」

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