第6話 モモと魔導具屋
ルルの鼻を頼りにしてたどり着いたのは、怪しげな店がならぶ街の外れ、こじんまりとした店らしき場所でした。
ドアを勢いよく開けると、中には作業台の上に乗せられた半裸のレモナ様、そして見るからに怪しい老人が。
「な、何をして!レモナ様を解放しなさい!」
「解放?冗談じゃない……」
「な、なんですって!」
「おい嬢ちゃん、落ち着けよ」
顔が紅潮しています!危険です!やべえやつです!
「問答無用です!《氷精よ!凍結させよ!》」
「うおっ!何すんだ!」
魔術の射線上に何かが投げられ、防がれます。
「変態の割によくやりますね!」
「なぁ、落ち着けって。俺がお前らみたいなクソガキでも見境なく食っちまうようなイカれた奴に見えるか?」
髭面、紅い顔、半裸のレモナ様、店のある場所。
改めて見ても怪しさしかありません。
「見えます!」
言った老人も確認するように見ました。
「……いや、確かにそうかもしれないな」
「やっぱりそうなんですね!」
「いや、そういう意味じゃねぇよ!?」
「いいですか、要求は一つです。レモナ様を私に引き渡しなさい」
「……嫌だね、すぐに人に向かって凍結系を使ってくる奴がまともなわけ無いだろ」
「……あっ」
そういえば凍結は人に向かって撃っちゃダメなんでした。
「……あの、その、私はですね?」
「それにその魔獣。そんな魔力密度の高い化け物をお前みたいな歳の子供が連れているのは不自然だ」
「そ、それは……」
確かにルルは珍しい魔獣……いえ、犬ですし。
「そして、状況的に俺が怪しいとはいえ、そんな素っ頓狂な事を言い出して襲ってきた、つまりはーー」
「え、あの」
「恐らくは、近くの人間に聞こえるように言って、あたかも正当な救出のように演出したかったのかもしれないが、そうはいかない」
「話を……」
「この子は俺が守らせてもらう」
「あら、どうしたの?」
いつの間にか、レモナ様が起き上がっていました。
「あ!」
「おい、まだ寝てろ」
「え?あ、そういう事ね!終わったら起こしてちょうだい」
レモナ様は寝はじめました。
そういう事って、どういう事なんですか!
「……意識があれば洗脳魔術で知り合いに見せかける事も簡単だからな」
「そ、そんな!」
洗脳魔術を使っているという事ですか。
「ねぇーもう起きてもいいのかしらー?」
レモナ様が寝転がりながら聞いてきます。
「お、起きてください!」
「わかったわ!」
ガバッと起きあがるレモナ様。
「な!他人の言う事を直ぐに聞いただと!やはり洗脳魔術を!」
「ち、違います!」
「寝てろと言っただろ!」
「なんなのよー、もー!」
またレモナ様は寝はじめました。
「どうやら掛りが甘かったようだな、あいにく魔術対策は万全だ。お前にこの子は誘拐させない」
私は一体どうしたらいいのですか!?
「あ、ちょっと喉乾いたから水飲むわ!」
レモナ様は奥に歩いて行きました。
「好きにしろ!」
「そっちこそ洗脳魔術を使ってるんじゃないんですか?」
「このお菓子食べるわね!」
「対策は万全と言っただろう!この店じゃ少なくとも俺にはその類は使えねぇよ!」
「それが本当かわかりませんからね!」
「じゃあ、もう私帰るわ!」
「好きにしろ!」
「え?」
「え?」
振り返るとレモナ様は、もうドアを開けて居なくなっていました。
「………?」
「?」
見合う私とお爺さん。
どう言う事ですか?
レモナ様はどこに?
やはり洗脳魔術?
「おい、レモナをどこにやった?」
「それはこっちのセリフです!」
ここは早く脱出してレモナ様を追いかけるべきでしょうか?
でも、仮にこの人が洗脳魔術を使っていたら、先に倒さないとどうにもなりません。
「あくまで言わないつもりなら、こっちにだって考えはないあるぞ」
「こちらもそれ相応の対応をさせてもらいます」
緊迫した雰囲気、それを破ったのは。
「ねぇ、モモ?何してるの?早く帰りましょうよ?」
ドアを開けてレモナ様が聞いてきました。
「え?」
「あれ?まだ帰らないの?」
「だって、その」
「わかったわ!外で待ってるから!」
「あ、はい」
「人質のつもりか?」
「え?」
「お前の要求は何だ?そこまで高度な術を使える人間が何の用なんだ?」
「だからあの」
「まだかしらー?」
また顔を出すレモナ様。
「レモナ様は静かにしててください!」
「レモナは黙ってそこにいろ!」
「え、あ、うん。なんかごめん」
近くに腰掛けるレモナ様。
困ったものです。結局、これはどう言う状況なんでしょうか。
「それで……レモナ様は解放してもらえるんですかね?」
「解放してほしいのはこっちだ!」
「訳の分からない事を!」
「あ、わかったわ!私も混ぜなさいよ!」
「え?」
「は?」
「いいかしら?人質を返して欲しくかったら、土下座しなさい!」
「くっ!従うほか無いようですね!」
やむなく言う通りにします、恐らくレモナ様の口を使って喋らせているのでしょう。
「くそ!他に手段がない!」
怪しいお爺さんも悔しそうな顔をしながら、土下座をしています。何してるんですかこの人?
……なんかおかしく無いですか?
なんで二人してレモナ様に土下座してるんですか?
「あっはっは!残念ながら人質の命はここまでよ!私は悪の魔人!約束なんて守らないわ!」
「レモナ様?」
「何かしら?」
「今なにしてるんですか?」
「え?ごっこ遊びじゃ無いの?」
「なあ」
「そうですね」
お爺さんと目が合いました。
どうやら誤解だったようです。
◆◆◆◆◆◆◆◆
魔導具屋のおじいさんに謝った後、私達は生徒が避難している講堂へと向かっていました。
「一人で塔に挑むなんて無理しすぎです」
「別にいいじゃない!」
「よくありません!いくらフーカさんが心配だからって」
「フーカも中にいるの?!」
「……知らなかったんですか?」
「ええ、なんか危ないって聞いたから飛んで行っただけよ?」
「はあ」
この人の思考回路は気にするだけ無駄でしょうね。
「なんでフーカが中にいるって知ってるのかしら?まだ誰も入ってないって聞いたけど」
「レモナ様がどっか行ってる間に第六王女の直属部隊とか先生達とか上級生が行きましたよ?」
「え!ずるいわ!私も行きたいのに!」
「誰も帰ってきてませんけどね」
「……じゃあなんで尚更フーカが中にいるのを知ってるの?」
「……ちょっと耳を貸してください」
「え、ええ」
「あの塔が出てくるときに一緒にいたので」
「……何したのよ?」
「エントランスで魔力貯蔵室に行こうとして、詠唱を間違えたんです」
「……誰にあそこの機能教わったの?」
「ネーデルさんの本に書いてあったんです」
「あれが読めるわけ無いじゃない、古代語で書かれてるのよ?」
「まあ、彼女の事ですから解読する魔術とか使えるんでしょう……結局間違えたらしいですけど」
「間違えただけでこんな事に?」
「そうなりますね。……今回の事件、発端は私達です。この事がバレたら不味いです。地下から帰った時よりも。ここは魔人の所為って事にしつつ、フーカさんを救出しないと」
「そうね!せっかくの子分が居なくなってしまったら嫌だもの!」
私も子分という扱いなのでしょうか?
「私だけじゃ、心許ないわ!人を集めましょう!」
「そうですね」
まさかレモナ様がそんな事を言うとは思いませんでした。
よほど酷い目にあったのでしょうね。
「どこに行くんですか?」
「今は猫の手でも借りたい時よ!」
レモナ様は箒で先に飛んで行きました。
「ま、待ってください!」
この状況で一体誰を頼るんでしょうか?若干不安です。
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