第6話 馬鹿騒ぎの引き金

「あれ?レイマンの店なのにやってない。遅すぎたのかしら?」


 どこかにいってしまったフーカさんを探しつつ、明日の準備の為にレモナ様のオススメの店に着きましたが、どうやら閉まっているようでした。


 この街には色んなものが売っているみたいですし、確かに目移りするのもわかりますけど、フーカさんはちょっと不注意なんじゃないかと。


 レモナ様もフーカさんも、準備そっちのけで変なお面とか買ってるし、二人とも頭の中が残念な方なのかもしれませんね。


「ここが開いてないのでしたら、別の店でもいいですよ……?」


「ここならかなり安く手に入るのよ?他じゃあ手に入らないようなものまでね!」


 開いていないんだからどうしようもないんじゃ……?


「レイマン?いるんでしょう?起きなさい!……ダメね。あーもう!何で開いてないの、よ!」


 レモナ様が近くに落ちていたお酒の瓶を蹴飛ばすと、それは弧を描いて…お店の扉にあたり….店のガラス戸を割ってしまいました。


「あ」


 派手な音を立てて扉が割れました。

ジリリと、魔導具の警報がなっています、流石レモナ様です。

彼女にはきっと芸人の才能があるんでしょうね。


「な、なにボケっとしてるの!早く欲しいものを持っていくのよ!」


「それじゃあ普通に泥棒じゃ……?」


「ち、違うわ!これが此処の挨拶なの!だ、"ダイナミックエントリー"よ!だから大丈夫!お金は後から親が払ってくれるから!でも、なるべくものは壊しちゃダメよ!」


 そう言いながら、レモナ様は扉を蹴り壊しました。ドアは破壊してしまっても良いのですね。


「なるほど」


 まあ、レモナ様が言うのだから、大丈夫でしょう。取り敢えず好きなものを持っていくとしましょう。

折角ですし杖を新調してもいいかもしれません。


「これと、それにこれも、あとそれとそれ。これも必要ね」


 自分の物みたいに次々に取っていくレモナ様。

こんなに自然な動作なんですから、普通の事なんでしょう。


「そんなに持っていけませんよ?」


「そこにある《吹けば飛ぶ鞄》に入れたらいいわ!」


 レモナ様が指差した先には、私達でも中々手の出ない魔導具の《吹けば飛ぶ鞄》がありました。


 もし学校で持っていたら英雄扱いされます……冗談抜きで欲しいですね……本物の証の竜の鱗が光ってます、眩しいです。


「レモナ様こんな高いもの持ってましたっけ?」


「ええ、さっきからずっと!」


 ああ、成る程これも"拾った"んですか。


「あ!これ金貨のお菓子ね。しまっておきなさい!私好きなのこれ!」


 輝きが本物の金貨のそれなのですが。

大丈夫なんでしょうか?

流石にこの歳で捕まるのは嫌ですよ。


「それって本物じゃ?」


「じゃあ噛んで見なさい」


「えっ」


「やりなさい…私の言う事が聞けないのかしら?」


 無茶を言います。

家格をこれ見よがしに使ってくるなんて。


「わかりました……あ!」


 金貨を噛むと中身は本当にお菓子でした。

思いの外美味しいですね。


「これは外側は本物の金箔なの。少し前はまでは良く売ってたけど作ってた人達が……まあともかく、あるだけ持っていきましょう!」


 お菓子なら怒られない……でしょうか?


「こ、これは……!?」


「何ですかレモナ様?」


「見なさい!これ!この高そうな箱!開かないわ!」


 開かないって言われても……どうしろと?


「多分これは一番大事なやつね!」


「じゃあ戻さないと……」


「場所がわからないわ!」


この数秒で忘れたんですか。


「書き置きして、分かりやすい所に置きましょう?」


「そうね!"これは置いておく"っと」


「それで大丈夫なんでしょうか?」


「前も書き置きだけで大丈夫だったわ!」


 権力というものは素晴らしいですね、全く。


 私達は結局、店の中のものを好き勝手に取って、入り口の片付けもせずに外に出ました。

でも良い杖はありませんでした、残念。


「さて、次は腹ごしらえね!」


「え、フーカさんは!?」


「大丈夫。多分お腹が空いているんだから、行き着くところは同じよ!」


「……なるほど!めいあんですね!」


 もう考えるのはやめです、無駄です。


「うぉぉぉぉお!あたっ」


「え?」


 走り出したレモナ様は何かにぶつかって立ち立ち止まりました。

外套を羽織った方が倒れています。

かなり転がったようですが……


「大丈夫ですか…?」


「馬鹿な……なぜ先回りされ……く、商館の……」


 そこまで言うと、気絶してしまいました。

倒れていたのはゴブリンのおじさんです。

可哀想に、レモナ様の突撃を食らえばひとたまりもないでしょう。


「その人は何て?」


「さあ?商館とかなんとかって、あ、何か持ってますね」


倒れた男の人が持っていたのは変な杖の入った包みと手書きの地図でした。


「ああ、此処はあの商館ね。これを届ける途中だったのかしら?可哀想だし、代わりに届けてあげるわ!」


「え、あ、はい、わかりました、それでこの人はどうしますか?」


「あ、ちょっと鞄を持っててもらえる?」


私は召使いではないのですが、仕方ありません。


「《空の盾》!」


おじさんはふわりと浮き上がりました。

私達はおじさんを運ぼうとしますが、全然動きません。


「何で浮かべてるのに動かないの!?」


 私にはわかりません。

おじさんの方が重いからでしょうか?


「しょうがないわ!乗りなさい!」


「はい?」



◆◆◆◆◆◆◆◆



「ようこそ我が商館"ファンタズマゴリア"に」


 応接間に現れたのは古物商のレイマンと妙なお面をつけた小娘だった。


 成る程、殆ど使う事のない《自ら行く手紙》を寄越してきたのも納得だろう。

まさか彼が客を連れてくるとはな。


「……本日の御用向きは?」


「先程連絡した通りだ。こちらの方に最も優れた"道具"を用意しろ」


「……」


 娘は無言だった。


《竜の瞳》--魔力を使わずに魔力光を見る事ができるモノクル--で、少女を盗み見ると肩の辺りから暗い紫色が漏れ出ていらのが見えた。


……闇属性という事は"両刃の斧"に間違いないだろう。


「どのような"道具"がご入用でしょうか?いずれにしても最高の品を用意致しましょう」


 私の質問に、娘は淀みなく注文を始めた。


「先ずは綺麗に文字を書けるもの」


「記録用ですな」


 奴らはやはり単独ではなかったのだな。

組織に必要な人員を仕入れに来たというところか。


「そう、記録するもの、あとは……魔術を使う為のものに」


「成る程」


 魔術に使う生贄か。

やはり闇魔術の使い手は恐ろしい。


「あとは……いい杖が欲しいかな?」


「といいますと…?」


「魔術の適正がなくても使えるような杖……ないかな?」


 あり得ない事を当たり前のように言い切る。

まさか、あの事がバレているのか…?

どういうつもりだ、こいつらにも必要なのか……?


レイマンへ目線を向ける。

彼は何も言わず頷いた。


私達を処分しに来たわけではない……?

だが、やすやすと見せるわけにはいかない。


「実は……少々切らしておりまして……」


「この時期は、ここに来る上の学生も増えるんじゃないの?」


何故、"そこまで知っている"……?

これまでの注文は全てブラフか?

いや、ここまで把握している相手がわざわざそう言ってくるというのは……。


「ある事にはあります。ですが……」


「あまり時間がないの。外に待たせている人がいるから、それとも私を手ぶらで帰らせるつもり?」


 時間稼ぎをさせないつもりか……

手段は選んでいられない。


「畏まりました……ではこちらでお待ち下さい」


 自然に部屋を後にする。

勇気ある撤退だ、万が一に備えなければ。

それにしても…"待たせている"か、後ろに控えている者がいる……突入させて、片付けるつもりか?


 どうにかして人員を揃える時間を稼がなければ。

スベトラーナの二の舞は御免被る。

レイマンが連れて来たのは"始末"を任せると言うことだろう、面倒事を……。


だがいいだろう、この事が片付いた後には笑って許そうじゃないか。

もしお前が五体満足で私の話を聞ける状態なら、な。

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