第4話 雨林の小休止
私達を放り出した籠車の元に辿り着いた。
レモナがなんとか扉をこじ開けたけど、もうボロボロで使い物にはならなかった。
絶望しかけたけど、レモナ曰く登り用は他にもあるらしい。
それを聞いた私とモモは、直ぐに2層目に戻れると無邪気に喜んだものだった、でも、それもつかの間。
「ないわ!」
「え……本当に?」
思わず聞き返してしまった。
「ここには降り用しかないみたいね!」
レモナの顔に付いているのは雨粒だろう。
きっとそうだ。そうに決まってる。
……まさか冷や汗?そんなはず無いよね。
「一度休憩しましょう」
レモナがそう言った。
慣れない林を歩くのは思いの外疲れる。
雨をしのげるなら、すぐに休みたい。
でもそんな場所は見当たらない。
「雨宿りできる場所を探して……」
「ここでいいわ!《空の盾よー》」
レモナは私達の頭上に魔術を放つ。
それは私達を囲んで結界となった。
空中を水滴が伝っていく。
結界の中の温度は快適。寒さは感じない。
「モモ、こっち向いてー」
「はい?」
「除湿」
「ひぃあ!」
モモと自分に『除湿』を掛ける。
びしょ濡れだった私達は出発した頃に戻る。
「じ、自分でできますっ!」
モモは何故か震えている、まだ寒いのかな?
「服が濡れるのって面倒なものなのね」
哀れむような目でこちらを見ているレモナには、全く必要なさそうだ。
「……あとは、椅子ね!」
そう言って次々と魔術を使うレモナ。
多分、椅子とかを用意しているんだろうけど、透明な所為でどこに何があるかわからない。
「どうしたんですか?フーカさん?座らないんですか?」
モモはごく普通に座っている。何で見えているんだ?
見えていないのがバレないよう、椅子を手探り座る。
おお、浮いてる!重力から解放された気分。
感触は生前、家具屋で数時間は居座っていた高級座椅子のようだった。
これで場所がわかるなら便利なんだけど。
《魔力光が見えないのか?》
何それ?浴びたら廃人になるやつ?
《……落ち着いて、目に魔力を集中させろ。》
目に集中……わからん。
念話は簡単に出来たのに、全然要領がつかめない、一体どうしたらいいんだろう。
「さて、紅茶をって……アリシアがいないとお湯が沸かせないじゃない!仕方ないわ……ねえ、お菓子の用意は?」
「何も持ってませんよー」
集中の邪魔をしないでほしい。
「……む、ネーデルの教育はなってないわ、先ず最初に私の為の知識を……」
「レモナ様!これあげます!」
モモがポケットから取り出したのは、紙に包まれた白い塊だった、見かけはバターのようだけど。
渡されたレモナはご所望のお菓子らしきものを見て、何やら不機嫌な様子。
「……チョコレートはないの?これキライなのよね」
言いつつも受け取って口に運ぶ。
「……すいません、これしかなくて」
わがままか!……あ、集中が切れた。
ダメだこりゃ。
《うむ。目を閉じろ。言っておくが小娘、魔力は見るものではない》
感じろとでもいうの?
《そうだ。考えるな、感じろ》
頭の中をカラにして焦点を外した。
変な顔してるかもしれない。
ぼーっとし続けると、徐々に、いくつもの埃やチリのような物が宙を舞っているのが見え始めた。
これが魔力光なの?飛蚊症じゃないよね?
《そうだ。お前にはその程度しか見えんようだが……仕方あるまい『我の見るものを見よ』》
視界が歪んで変質する。
不快感に目を閉じる。
《せっかく我輩の世界を見えるようにしてやったのだ。閉じるな》
恐る恐る目を開けると、今まで完全に透明に見えていたレモナの魔術が、はっきりと色付いて見えた。
それは、うっすらと金色の燐光を帯びた椅子や屋根。
燐光を帯びているのはそれらだけでない。
目に映る全てのものに、様々な色の仄かな光が宿っている。
《この世全てのものは魔力光を帯びている。故に、万物は魔力に見る事ができるのだ》
自分の手を見ると、黒い燐光が散っている。
お、闇属性的な感じか?
《闇は我輩に宿る色だ。よく見ろ》
残念ながら、どうやら闇は紫色らしい。
じゃあ私の色って……?
《それは……》
「フーカも食べなさい、ほら」
私の口にモモのお菓子を放り込むレモナ。
非常に粉っぽいホワイトチョコというような味わいだ。
昔どこかで似たような外国のお菓子を食べたような気がする。
「……お菓子だけじゃ足りないって顔してるわね?それならほら、こんなこともあろうかと!」
どっかで見た生肉がレモナの鞄から出る。
どう保存していたのかわからないけど、僅かに金色の光が見えた。
多分魔術でどうにかしてるんだろう。
「じゃあ、折角だし《黒竜の吐息》を見せてもらいましょう!」
黒竜はみんな使えるような口ぶりだけど。
《流石に何かしら処理はした方がいいぞ?》
血抜きって言っても、時間かかるよね?
《いや、そうでもーー》
「これだけ大きいのだから美味しい事でしょうね!」
彼女にはそんな事はわからなさそうだ。
血抜きって魔術でどうにかならないかな?
除湿とかつかったらすぐにできるんじゃ?
《やった事はないな。まあやってみてもいいが……》
食べるならまともな方がいいし。
「ではそれをこちらに…」
レモナの手から離れた肉の塊は落ちる事なく平行に滑り私の手元へ。
「……除湿」
肉塊から赤黒い液体が手の中へ消えてゆく。
出来た、けど、ちょっと乾きすぎてる。
もしかして:私、何かやっちゃいました?
え、いや、『私は悪くない』ぞ?
《だから普通は『除湿』なぞ使わんのだ…》
「あ、『除湿』なんてしたら…」
モモとイヴから不満の声。
「まだなの?」
レモナは何も見ていないようだ。
《仕方あるまい…『それを焼け黒竜の火』》
紫色の火を吐き出すイヴ。
「これが黒竜の吐息…でもお茶は湧かせそうにないわね」
というか直火で大丈夫なのか?
《注文の多い奴だ『空よそれを分て』》
ただの塊だった肉がきれいに4分割された。
「風魔術も使えるなんてお利口なのね!」
《これで問題あるか?》
少なくとも"豪快な料理"の領域になったね。
わがままを言うなら調味料が欲しかった。
《まだ文句があるとは…お前は宮廷料理人か?》
この程度で?聞かなかった事にしておこう。
希望なくなるし。
食感はパサパサの鶏肉、異世界感はない。
それとも世界が違っても、人の口に合う味っていうのは別の世界でも変わらないのかも。
「残りは生で食べませんか?」
モモが何か言った、理解が追いつかない。
えっ?あんな化け物の肉を生で?
できらぁっ!とはいかないでしょ!
《ファファルは生で血を飲むように食うのがが一番うまいのだぞ?》
いや、私イヴと違ってトカゲじゃないから。
《騙されたと思って食ってみろ》
「じゃあ分けるわ!」
レモナは生肉を指でなぞる。
触れられただけで、肉はパラパラと解けるように、薄く分けられた。
もちろんレモナの風に包まれているが血はその風の中に水泡のように浮いている。
「はい、どーぞ」
笑いながら差し出してくるし……。
ジャングル奥地で原住民と触れ合いって?
私は芸人じゃないぞ!ゲテモノ食いは芸風じゃあない!ここは苦手といって断ろう!
「わ、わた」
言い終える前にモモが私の口の中へ。
「ふふっ、どうです?新鮮だと美味しいでしょう?」
目が全然笑ってない。
私が断ろうとしたのに気がついて……?
「あれ?どうかしました?」
微笑むモモ。間違いない、確信犯だっ……!
うん……思ったより悪くないな……ワインでもあればハムの代わりなるかな?
だけど、こんな場所に生息している生物がなんでそんな……あ、彼らの主食って。
トカゲはトカゲだからいいとしても、彼女達は……気分悪くならないのかな?
《フン、飢え死にするよりかマシだろう。…貴様は何を言っている?》
◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、お腹も一杯になった事だし、二層に戻るわ!」
「どうやって帰るんですか?」
「上に登ればいいじゃない!」
上を指差すレモナ。腰に手を当てて格好付けている。
というかそれが出来るなら最初からそうしてるでしょうよ。
「どうやって登るのか聞いてるんですけど」
「もちろん階段よ」
「えっ」
そういうのあるの?嘘やん。
「えっ、じゃあ何で探してたんですか?」
モモが根本的な質問をした。
「せっかく来たのにすぐ帰ったら……面白くないわ!」
レモナは満面の笑みを浮かべた。
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