第14話 進路

 空気が凍てついて固まっていた冬も溶けだして終わり、私たちは3年生に上がりました。高校3年生ともなると、まず考えるのは卒業後の『進路』ですね。ちょっと遅いくらいですが。


 私の組でも進路について、先生たちや親まで交えて三者面談さんしゃめんだんを行ったりして、進路を決めています。大学に行く人・専門学校に行く人・就職をする人・海外留学を考えている人、その進路は様々です。


 そんなこんななある日の放課後、今日も結奈ゆなと一緒に宿題を片付けながら、雑談をしていました。内容は、やはり「進路について」に流れてしまいます。





「みおっちー。みおっちは卒業したらどーするのー?」

「私? うん、理学部生物学課のあるK大学を目指そうって考えてる」

 はぐらかしても嘘をついても仕方ない所なので、私は正直に答えました。

「生物? みおっちは頭がイイから、医学部とかそういう所に行くと思ってたよ」

「確かに先生にも勧められたけど……。私ね、『言葉』について勉強したいって思ってるの。そこの学部だと、『言葉による暗示』とか『言葉と脳科学の関係性』とか、そういう事を研究してる研究室があるそうなの。そこに行きたいなって」

 これもまた正直なお話。私の『耳』に関する特徴も活かせる、良い研究室だと思っています。『言葉による威圧』も、興味のある所ですし。


 そんな質問をした結奈ゆなは、あまり浮かない顔をしていました。

「あーしはアタマが弱いからなー。大学行くって考えも無かったよ」

 おかしなお話でした。実際の所、結奈ゆなの成績は悪い訳ではなく、むしろ上位に数えられる人でした。

結奈ゆなの成績なら、大学に行ってもちゃんと出来ると思うけどな」

「ううん。みおっちがこうやって勉強を教えてくれてるからだよ。そうじゃなきゃ、あーしの成績なんてボロボロ」

 達観してると言うか自覚してると言うか、私との放課後の居残りが、彼女の成績を下支えしているのは確かな事。でも、努力の結果がちゃんと出ているのですから、正当な評価をしてもいいと思うのです。


「あーしね、多分、みおっちが勉強に付き合ってくれなかったら、ここまで勉強出来なかったと思う」

 そう言って、両腕を頭の上に伸ばして背中を反らし、天井を見上げます。

「みおっちが一緒の大学だったら、頑張れるのになー……」





「だったら、一緒の大学にしたらどうかしら?」

 私はひとつの提案をしました。私としても、結奈ゆなが一緒なら心強いし、良い勉強相手になると思ったからです。

「……みおっち、本気で言ってる?」

 怪訝そうな顔で私を見る結奈ゆな。それに対しての返答も考えてあります。

「私の目指しているK大学だと、そこまで偏差値も高くないし、結奈ゆななら頑張れば行ける所だよ。それに、同じ学部にする必要も無い。これから進路を変えるのも大丈夫だと思うよ」


 少しの間があって、結奈ゆなは顔を引き締めて語りました。

「ちょっと親に相談してみる。行けたら一緒に行こ、大学」

「うん、もちろんだよ」

 こうして結奈ゆなの進路は、考え直しになった訳なのです。


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