第13話 疑いの言葉

 そろそろ冬も深まり、タイツを履く足にも冷気がまとわりついてきた、ある日の事。私のいる教室で、ある事件が起こりました。それは、ある女子生徒の髪留めに使っていた『バレッタ』が無くなっていたというもの。

 体育の時間に一度髪から外して、それをどこかに置いた所、どこかに消えてしまったようです。


 私が聞いた限りですと、どこかに落とした音は聞こえてませんから、何かの荷物にまぎれたか、誰かが盗んだか…。そんな所でしょう。


 問題はその直後の対応でした。


 あろう事か、バレッタを無くした女子が「絶対コイツが盗んだのよ!」と、よりにもよって私の友人の結奈ゆなを名指ししたのです。そのため「盗んでない!」「いいや、お前だ!」と口論に。


 それを見ていた担任の先生も入って、

たちばな、お前のカバンの中身、見せてみろ。盗んでないなら出来るだろ?」

 と、結奈ゆなを犯人扱い。

 もちろん盗んでませんから、カバンの中身全てを机の上に広げて見せ、無実を証明しようとしました。


 しかしさらに展開は悪い方向に向かいます。


「おい。今なら許してやれる。どこに隠したか言え」

 完全に犯人に仕立てられてしまっていました。

 私はいてもたってもいられず、「えっ?」という顔をしている結奈ゆなの脇に立ち、彼女の弁護に入ります。


「ちょっと待って下さい! 結奈ゆなはそんな事をする人じゃありません!」

「じゃあ杉崎すぎさき、コイツが犯人じゃないって証明が出来るのか? こんなチャラチャラした不良が、やってないって言えるのか? 真っ先に疑って当然の格好だろうが」







(カチン)

 私の中のスイッチが入った感覚がしました。

「おい…」

 私は言葉に『力』を込めて言い放ちます。

 その圧力に気圧けおされ、教室内のざわめきが消えます。

「座れ」

「な…何を言って「座れ」

 先生は渋々、胡座あぐらをかいて座ろうとします。さらに私はそこに言葉を重ねます。

「誰が胡座あぐらかけっつった。正座だよ」

 私の声から響く怒りに頬をひきつらせ、ササッと正座する先生。

「よくもまあ教師ともあろうモノが、そんな服装で差別する発言が出来たよなぁ。わかってンのか?」

 頬をひきつらせている先生の顎に指を伸ばし、スッ…とその輪郭をなぞります。そしてトドメの一言を耳元で、小さな声で囁きます。

「お前、児童買春してるだろ?」

 その一言で先生の顔は青ざめ、大量の汗が顔と首筋に吹き出ます。

「お前の方が、よっぽど疑わしい行動をしてるよな? その口がよく言えたモンだ」


 先生はカタカタと震えだし、床を見つめて一言も喋らなくなっていました。もう、ここまで締め上げれば大丈夫でしょう。

「とりあえず一度、カバンと机の中、両方を全部出してみたら?」

 私の言葉の『力』と目の前の場景に呆気にとられていた、バレッタを無くした女子。その子に声をかけ、もう一度探すように促します。

 すると、カバンの底の方からバレッタが出てきたのです。申し訳なさそうに「ごめん…」と力の弱い小さな声で謝罪すると、そのまま席に戻ってしまいました。これにて一件落着…ですね。






 その後、その時の先生は無言で教室を立ち去り、職員室に戻ってしまいました。


 それから数日後、その先生はクビになったとの事。もちろん私が教育委員会に匿名でチクりました。


 怒る時には、ちゃんと怒らないとね。

 それからは「杉崎すぎさきを怒らせたらイカン」という噂が広まったのは、副次的なモノです。

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