第10話 焼け付く音

 冬の寒さも弛み、厚ぼったい上着が要らなくなってきた、ある春の日の事でした。学年も2年に上がり、教室も変わって、心機一転といった所です。

 私の高校は、三年間クラス変えが無いので、同じ組の同じ顔と三年間過ごす事になるのですが。







 その日、私が授業の合間の休憩時間に、教室とは反対側のトイレに行こうとしていた時でした。


 トイレの中から知らない女子生徒の声が聞こえてきました。

「あー…。かったりーなー…」

 それと共に、ジリジリと何かが焦げる音がします。一旦トイレに入らず、壁に寄り掛かって視線を外し、様子を伺います。

 それから1分ほどで、くだんの女子生徒がトイレから出てきました。首もとのリボンタイの色から、1学年上の3年生の先輩だとわかりました。


 その先輩は、何事も無かったかのように、3年が使う下の階に戻って行きます。ちなみにここは2階です。


 それからすぐにそのトイレに入ってみると、映画館で販売しているようなポップコーンの香りが、仄かにするのです。


 それだけで何をしていたか、わかりました。彼女は、『電子タバコ』を吸っていたのです。もちろん校則でも禁止ですし、タバコは二十歳はたちになってからです。





 私は急いでトイレの窓を開けて換気扇を回し、換気をして電子タバコ特有の匂いを消すようにしました。それから床も見て、灰が落ちてないかどうかも確認しました。灰は落ちてませんでしたから、掃除の手間は取られませんでしたが。


 もちろんの事、こんな事を慈善事業でやっている訳ではなく、何かのネタになると思ったからこそ、こうやって証拠隠滅を図っている訳で。先生にチクるもよし、恋愛相談のネタにするもよし、色々有効活用が出来そうな事案でしたね。


 しかし、わざわざ3年生が2年生の階まで上がって、トイレに隠れて電子タバコを吸うなんて、手の込んだ事をしますね。まあ、本人もそれだけバレないよう、気を使っている証拠でしょうけど。


 その後の足音を聞きながら追跡して、その3年生の組と席の場所はわかりました。名前もそこから割り出せますから、後は煮るも焼くも自由です。名前と行為を紐付けしておけば、良い情報のネタになります。





 そんな所で休み時間は終わりに近付き、急いで用を済ませて教室に戻ります。


 思わぬ所でネタが拾えたのと、余計な後始末をしなければならなかったので、プラスマイナス0です。さて、次の授業は日本史です。そちらに集中しましょう。

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