残酷な現実

 テスト返却された次の日・・・もちろん西暦の語呂合わせは徹夜で覚えた。いつもそうしている。


 そして、適正コースが皆に言い渡された。

「やっぱりかー」

予想通り、私の適正コースは理系だった。

宗四郎は文系だった。

・・・足して2で割ったらちょうどいいのにな。

平均点も出され、全国平均は理系は30%、文系は32%だった。

・・・低くない?

私は平均両方越えていたけど、宗四郎は駄目だったか。でも20%代はないわ。

「うわー、どうしよう、理花ああ」

まあ、本人が一番悔しいようだ。


 


昼休み、私と宗四郎は担任に呼び出された。なんだろう。


 職員室に行くと、担任が笑顔で言った。

「あなたたち、飛び級してみない?二人とも今回のテストで、この地区一番の点数だったの。早く社会に貢献するチャンスよ」

「・・・あー、私はいいです。他のコースでやりたいことがあるので」

「僕も同じく」


そう言った瞬間、部屋中の空気が凍りついた。

「あなたたち、本気で言ってるの?」

「・・・え?」

「もっと本気で考えて。日本の社会に貢献したいと思ってないの?」

「そんなこと・・・」

「こんなに素晴らしい能力を持っているのに、そんなんじゃ台無しよ」


「・・・なんだよ、それ」

宗四郎が呟く。握った拳がプルプルと震えている。

「おかしいだろ。やりたいことやって何が悪いんだよ。子どもを舐めてんのか」

先生は少し驚いた様子を見せ、その後ため息をついた。

「とにかく、考え直した方がいいわよ。社会のためにも、あなたたちのためにも」

「私たち?」

「今の世の中、好きなことをやるよりも、社会に貢献しろという考え方なの。あなたたちだってみんなから見下されたくないでしょ?」

「もういいです」

宗四郎は私の手を取り、走り出した。

「こら、どこ行くの」

そんな言葉は無視した。



「はあ、はあ、」

屋上まで走った。

「ごめん、ついカッとなって・・・貢献貢献うるさかったし」

「大丈夫。それより、手。痛い」

力強くなったね。

「っ!ごめん!」

「いいよ別に・・・で、どうする?これから」

「・・・どうしよう!先生ともう喋れないよー!」

「違う!進路!」


「・・・ごめん」

・・・は?

「俺、やっぱ医者以外考えられない」

「そう」

「理花は?」

「私も・・・弁護士以外考えられない」

「・・・よし、じゃあ二人で、この残酷な現実を乗り越えて、なりたいものになってみせようぜ」

ちょっとイタイ。けど・・・

「そうね・・・そういえば、あんたが担任に言ってたことだけど、あれ、担任に言っても仕方ないわよ」

「・・・そうだった。じゃあ、国会に乗り込んで訴える?」

「いやいや、捕まって終わりよ」

「・・・うーん」

「別に訴える方法を考えなくても、私たちだけで頑張ればいいんじゃない?」

「そうだね、二人で勉強がんばろう」

「うん、その意気」

弱気になっていたら、社会という現実に押しつぶされる。


私の実力のせいで叶わなかったのならそれでいい。でも・・・せめて子どもの間くらい、夢を見させてくれませんか?


 

教室に戻ると、そこかしこから「フーフー」と声が聞こえてきた。何だろ?

「お前ら、付き合ってるんだろ」

「手え繋いで走ってるとこみんな見てたぞ」

「やっぱりそういう関係だったんだ」

くっだらな・・・やはり社会は信用できない。

私と宗四郎は、無視を決め込んだ。


今日は廊下で先生とすれ違うたびに「考え直した方がいい」と言われた。本当にみんなどうかしてる。私たちをただの駒だとしか思っていない。




・・・ただの我が儘かもしれないけど、この残酷な現実のなか、私たちは何としてでも夢を叶えなければならない。


自分のためにも。未来のためにも。










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