第17話

怠い。

熱は多少は下がったが、本調子とまではいかないようで、タロウ達との散歩もダラダラと歩く。

家に戻ると、食卓には何故かおにぎりと風邪薬が置かれていた。

たぶん、隣のばあちゃんだ。

そういえば、散歩に出るとき、気怠げに挨拶してしまったような気がする。

あの人は凄いなぁと、ちょっと苦笑する。

俺は、おにぎり一個を頬張り、残りを弁当箱に詰めた。


登校路もダラダラと歩く。

雨は降っていないが蒸し暑く、汗もダラダラと出てくる。

雨の日に散歩なんて行くなよ、なんて良太を詰りたくなってしまうが、昨日の出来事を思えば、結果オーライかも知れない。

まさか椎名が、あんな献身的なヤツだとは思わなかったし、とにかく色んな面で、アイツは天然記念物ものだ。

イマイチ信用ならん、なんて考えは、もはや捨ててしまっているけれど、そうなると後はアイツが良太にとって有用かどうか、を見極めなきゃならない。

いいヤツだからって、有用とは限らないし、時には害になることもある。

何より、以前のような失敗を繰り返してはならない。


昇降口で、重たげに靴を履き替える。

「彼はまだ熱が下がらないの?」

背後からの椎名の声に驚く。

突然、声をかけられたから驚いたわけじゃない。

喋り方や表情を見ずに、俺の後ろ姿だけで俺と見極めたことに対する驚きだ。

「何で俺と判った?」

椎名は「はあ?」という顔をする。

「そんなもの、纏っている空気や佇まいを見れば判るじゃない」

……。

ちなみに、佇まいを辞書で調べてみると、「そこにあるもののありさま。そのもののかもし出す雰囲気」とある。

「俺と良太の佇まいの違いって何だ?」

「そんな感覚的なことに言葉で答えられないわよ」

明確に答えてくれたわけではないが、椎名の答は明快だ。

確かに感覚的なことなのだろう。

「なぜ笑ってるの?」

あれ? 俺、笑ってるのか?

とはいえ、良太の熱が下がりきっていないということは、肉体を共有する俺としても同じであるわけなのだが……。

「何が可笑しいのか知らないけど、まだ熱があるなら帰りなさいよ。あなたのせいで彼が辛い思いをするのよ」

いや、その彼のせいで俺はツライ思いをしてるんだが。

まあ、それはともかく、

「昨日は助かった。礼を言っておく」

「だったらおとなしく寝てなさいよ。ぶり返したら意味が無いでしょう?」

可愛くねー。

でもまあ、少なくとも良太のことは心配してくれているのだろうから、その言葉に従っておくことにする。

「椎名」

「何?」

「サンキュ」

「いいから帰りなさい」

少しムスッとした顔で、椎名はそう言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る