第4話
ゴローと一緒に家路を辿る。
帰りはずっと下り坂で、道路脇には、棚田と、清冽な水が勢いよく流れる用水路。
遠くの斜面には茶畑があって、西日を浴びた民家が点在する。
振り返れば、高台にある学校の校舎も西日を受けて、黄金色に染まっている。
根古畑学園は公立高校ではない。
公立の小中学校は辛うじて存続しているけれど、義務教育ではない高校ともなると、こんな山間集落まで行政は面倒をみてくれない。
根古畑学園の生徒数が僅か27人で運営が成り立っているのは、都会に出て大成した根古畑出身者からの寄付と、集落全体からの賛助金があるからだ。
学園の存在は村の誇りでもあり、何か拠り所のようなものでもある。
かつて鉱山で栄え遊郭すらあったこの村は、今は衰退して、ただの静かな山村に過ぎない。
鉱山は昭和の初期に廃鉱になり、人口は五分の一になった。
当時の賑わいなど僕は知らないけれど、お年寄りから伝え聞いた話からすれば、その繁栄の歴史を物語るような学園の存在は、決して失いたくないものであるのだろう。
ほぼ自給自足ほどの収穫しかない田畑と、少しばかり出荷している茶葉、小さな梅林に、あとは細々と続く林業。
朝昼夕と三往復走るバスが、港町の勝部町までを四十分ほどで結ぶ。
勝部町は温泉で有名な観光地でもあるから、水産加工場や温泉旅館へ働きに出る人も増えた。
でも、人口は減る一方だし、学園もいつまで存続できるか判らない。
橋の手前で右に折れ、小川に沿った道を下る。
ゴローの足がやや速くなると、我が家が見えてくる。
タロウ達が出迎えてくれるので、一頻りじゃれ合ってから家に入る。
台所の机の上には、隣家のお婆ちゃんが作ってくれたおかずが置いてある。
玄関に鍵をかけることはまず無い。
この家は僕とお祖父ちゃんの二人暮らしだけど、宮大工であるお祖父ちゃんは、度々、仕事で遠方へ行き、長い期間、家を空けることがある。
そういったとき、お婆ちゃんの差し入れは増える。
近所の人から、野菜の差し入れもあったりして、玄関に無造作に積まれていたりもする。
お米を炊いて、おかずを温め直し、野菜を冷蔵庫に仕舞ったり、糠床の手入れをしているうちに夜になる。
田舎の、静かな静かな、けれど、ひっそりと賑やかな夜だ。
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