白昼夢
上京して幾年月が経っただろうか。
自宅と会社との往復の毎日で、職場では上司に罵倒され蔑まれる日々。
同期で入社した人間は愚か、後輩にすらいつの間にか追い抜かれ自分だけ出世街道とは程遠い人生を過ごしていた。
限界だった。
俺はホームセンターでロープを買い自殺を決意した。
家に帰り部屋の扉のドアノブにロープを掛ける。
後は首を吊るだけという時に連日の残業疲れと睡眠不足で意識が遠のく。
気が付くとそこは自分の部屋ではなかった。
雲ひとつ無い群青の空が広がる。
そこは音の無い世界。
そして遠くまで続く長い一本道に揺れる陽炎。
その一本道の先に誰か居るのが見えた。
目を凝らす。
向こうには幼い頃に亡くした父が居た。
父はゆっくり手を振りながら何か言っているが口が動いてるのは分かるが聴こえない。
俺は父の方に向かって走る。
だが走っても走ってもまるで逃げ水の様に追い付くことは無い。
やがて体力も尽き果てその場に項垂れた。
息を荒げながらも先を見ると父は何か言いながら手を振っている。
じっと目を凝らし父の口の動きを見るとやがて気付く。
「まだ諦めるな。」
そう言ってる気がした。
そしてそれが分かると父は笑顔で手を振りながら消えていった。
そこで我に返る。
そこは自分の部屋だった。
「白昼夢でも見ていたのか...」
そう思いながら、部屋を見渡す。
「もう少し頑張ってみるか…」
そう言って俺は用意してあったロープを棚にしまった。
蝉の音と茹だる暑さの夏の午後。
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