日記

俺が遺品整理業社で働いていた時の話。


その日はとある一軒家に先輩と2人で行った。


どうやら一家心中をしたらしく家族構成は30代の夫婦と5歳の女の子だそうだ。

勿論子供に関しては無理心中だろう。


現場に着き手分けして遺品整理を始める。


先輩は1階、自分は2階を担当した。

2階は夫婦の寝室と子供の部屋、そして父親の書斎の3つの部屋がある。


最初に子供部屋に入る。

そこにはまだ遊んでいたであろうおもちゃや絵本がそのままで残っていた。


「まだ5歳だってのに...」


独り言を言いながら遺品の整理をしていく。

暫くすると隣の書斎から「ゴトッ!」っと何かが落ちるような音がした。


恐怖に駆られながらも恐る恐る書斎へ向かう。

中に入ると一冊の本が棚から落ちていた。


拾うとそれは日記だった。

中を見るとどうやら母親の日記らしい。


病気で入院した事。入院中の出来事。退院したら何がしたいか。子供の事、旦那の事。

色々書いてある。


その日記の中には仮退院で家に一時帰宅した事も書いてあった。


「折角家に帰ってこれたのに自殺したのかよ。」

子供の事も含めやるせない気持ちになる。


日記をめくっていくと最後に1枚の写真と共にこんな事が書かれていた。


【私の命は後もう少しでしょう。でも、もしも神様がいてたった一つの願いを叶えてくれるなら...】


そこで日記は終わっていた。

写真は3人で何処か旅行に行った時の物だろう。


「俺だったら死なんか選ばないで病気を治して貰ってまた皆で仲良く暮らせるようにって願うさ。」


そう言って日記を棚に戻そうとしたら、


バタン!

いきなり書斎の扉が開く。

慌てて振り返ると青ざめた顔の先輩が居た。


「おい...この家なんかヤバイぞ!作業は辞めだ、行くぞ!」


いきなりの事でキョトンとする俺に更に捲し立てる。


「何やってんだ!早くここから出るぞ!」

急いで日記を棚に戻し先輩に言われるがまま家を出て車に乗り込む。


「どうしたんすか先輩?下で何があったんです?」

問いかけても先輩は何か小言でブツブツ言って話を聞かない。


何かとんでもないものでも見てしまったのかと思っていると携帯が鳴る。

見ると先輩からだ。


「は?いやいや先輩今隣で運転してるし。」

横を見ても確かに先輩がブツブツ言いながら運転してる。


いや、待てよ。先輩が会社に携帯忘れてって誰かが急用で電話してきたのかも。

でもそれだったらわざわざ先輩の携帯からじゃなくて直接俺にかければいいよな?

なんて思いながらもでてみた。


「おい!お前今何処にいる!」


先輩の声だ。

「いや、何処って先輩が2階に上がってきてヤバいからって車に乗ったんじゃないっすか!」


「は?何言ってんだ!お前が下に降りてきたと思ったら車に乗って出ていきやがったから電話してんだよ!」


何が何だか分からなくなった...


じゃあ今隣で運転してる先輩は誰なんだよ?

運転席の方を恐る恐る振り向く。


そこには女が居た。

俺はこの女を見た事がある。

さっき書斎で見ていた日記に挟まっていた写真で。

そう一家心中した母親だ。

彼女は物凄い形相でこちらを睨んでいる。

今起きている状況に理解出来ず唖然としている俺に女が言った。


「私の何が分かるのよ...」


そう言われたと思ったらそこから記憶がない。


気付くと病院のベッドだった。


コントロールを失った車が助手席側からガードレールにぶつかり大破。

自分は救急車で運ばれ3日間意識不明だったらしい。

重傷を負ったもののなんとか意識を取り戻したみたいだ。


その代わりに事故で片足を無くしてしまったが...


意識を取り戻してから数日後、先輩が見舞いに来た。


「もう駄目かと思ったわ。お前、あの時誰と一緒だったんだ?」

「車に乗ったのは見たけどお前助手席に乗ったし、なのに車は動き出すしで訳分からなくなっちまってさ。」


俺はあの日の事を先輩に話した。


「もしかしたらお前の一言で母親を怒らしちまって連れてかれそうになったのかもな。」


確かにそうかもしれない。

あの時あんな事言わなければ何事も無く終わっていたのかもと思っていたら


「あ〜そうだ事故った時お前の近くにこれ、落ちてたみたいだぞ。」


先輩が渡してきたのはあの家で見ていた日記だった。

「え?それって...」


あの時慌てて家を出たから日記を持ったまま出てしまったのか?

一瞬そう思ったがそんな筈はない。

確かにあの時俺は日記を棚に閉まっていた。


恐る恐る日記を手に取り中を見ていく。

やはりあの時見た日記だ。


あの日見たページまで読み進めていく。

そして何も書かれていなかった筈の次のページを捲るとそこには


【死にたくない】


と殴り書きでページいっぱいに書かれていた。


次のページもまたその次のページも...


おかしい。日記は途中で終わっており半分位は白紙のままだった筈だ。


また気を失いそうになりながらもページを捲っていく。


そして最後のページには

【絶対にあなただけは許さない。】

と書かれていた。


この先何が起きるかも分からない恐怖を感じながら俺は日記を閉じた。


それから数ヶ月、俺は退院し今は義足での歩行の練習の為にリハビリに明け暮れている。

仕事は辞めた。

そしてあれからまだ何も起きていないが今でも恐怖に怯えながら生きている。

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