彼岸花

祖母は彼岸花が好きだった。

どうやら生前の祖父が彼岸花が好きでいつしか自分も好きになったらしい。


祖父は5年前に病気で他界した。


とても気さくな性格で小さい頃はよく川に遊びに連れて行ってもらっては釣りをしたり水遊びをしたりしていた。

虫捕りなんかもしたな。


そんな祖父を自分も祖母に負けないくらい好きだった。


祖母は彼岸になると仏壇に彼岸花を供える。

「お爺さんの好きな花だったから。」

とニコニコしながら。

それがタブーと知っててもだ。


そして決まってその日は仏壇に向かい何か話をしている祖母が居た。


俺は彼岸に帰ってきた祖父と話をしてるのだろうと思い特に気にもせず祖母にも何を話していたのかは敢えて聞かなかった。


だが今年は少し違っていた。

夜中にトイレに行きたくなり目を覚ます。

階段を降り廊下を歩いていると仏間から声が聞こえた。


祖母の声だ。


「こんな夜中に?」


仏間に近づく。

すると声は祖母だけではない。

男の声が聞こえた。


「親父?の声ではないな。親戚の誰かでもない...誰だろ?」


静かに少しだけ襖を開ける。


そこには祖母と亡くなったはずの祖父が居た。

二人は嬉しそうに話をしている。


それを見て俺は何故か怖いというより懐かしさと久しぶりに祖父を見れた嬉しさがあった。


そんな二人を見ていると祖父がこちらに気付きそっと振り向いた。

祖父は満面の笑みを浮かべ俺を見た。


涙が止まらなかった。

俺の記憶の中のままの祖父が目の前に居る。


しかし涙を拭い部屋に入るとそこにはもう祖父の姿は無かった。


「婆ちゃん、爺ちゃんと何話してたの?」

今まで一度も聞くことのなかった質問を祖母に問う。


「お爺さんね、やっとお迎えに来てくれたのよ。」


「え?」

何を言ってるのか理解出来てない俺を横目に祖母が


「もう遅いから寝ましょ。」

と笑いながら寝室へと行ってしまった。


俺もトイレに来たのを思い出し慌てて用を足してその日は寝た。


朝、目を覚まし夜中の事を思い出す。

「まさかほんとに迎えに来たんじゃないだろうな!」

そう思いながら慌てて下に降りるが普通に元気な祖母がそこに居た。


夜中の事を聞こうとしたが朝食の準備やらで親戚一同で大忙しだったので結局祖母から聞けずじまいだった。


そして俺達はまた自分達の家へと戻った。


その一ヶ月後祖母も逝ってしまった。

癌だった。

ずっと親戚にも俺達にも隠していたらしい。


あの時に言ったことがホントになったのか分からないがきっと今頃向こうで祖父と再開してまた仲良くやってる事だろう。


来年の彼岸には二人の仏壇に彼岸花を供えようと思う。



彼岸花の花言葉は「また会う日を楽しみに」

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