19/贖罪

「どうしてッ! どうしてッ! どうしてッ! なんでお前だけがぁッ!」


 何度も何度も鈍器で打ち付けられ、僕の左腕はそのたびに跳ね上がる。

 僕はただただその痛みに耐え、行き場のない彼の感情を受け止めた。


 ──なんで、こうなっちゃったのかな……。

 痛みが熱に変わり、熱は感覚を麻痺させ、その感覚が彼への贖罪なのだと悟る。


 ──ふつうに、徹となかよく、したくて……。

 中学卒業間近から高校生としての1ヶ月間の記憶が走馬灯のように蘇った。


 ──たのしく、高校生活、おくりたかったんだけど……。

 皮膚を突き破る白、滲み出す紅、救済の無色────それは全て、僕ができる精一杯の償いの色だ。


 ──でも、おなじ〝痛み〟のもちぬし、なら……。

 ほんの少し、ほんの少しだけ僕は左を向いて、視界の中央に徹の姿を捉えた。


 ──徹のために、しんじゃってもいい、かな……。

 精一杯の笑顔を作り、彼が少しでも────救われるように。


「────とおる」


 僕の呼びかけに徹の動きが止まる。


「……いままで、ごめんね」

「────」


 彼はなにも答えない。

 さらに腕を大きく振りかぶり、徹は左手から頭部に対象を変えようとしていた。

 僕は目を見開く。ゆっくり、ゆっくりと徹の手がスローモーションのように近付いてくる。

 刹那。一瞬の閃光が走り、爆発音とともに耳鳴りが襲う。


「そこまでだぁッ!」


 階段の踊り場よりも下、1階から徹とは違う男の声が聞こえた。


「警察だ! 今すぐユウから離れろッ!」


 二度目の爆発音が鼓膜を刺激する。〝警察〟という言葉を聞き、それが威嚇射撃であることを理解するのにさほど時間はかからなかった。


「──ッ! なんで……。なんで警察が──」


 徹がうろたえていることは、彼の口調を聞いてすぐにわかった。


「いいから離れろッ!」


 徹は鈍器をゆっくりと床に置き、両手を挙げて後退りで僕から離れていく。そのまま進んで壁を背負うと同時に、頭の後ろで手を組むよう警察が指示した。そして壁側に頭をつけるようにして振り向かされ、徹の両手には手錠が掛けられた。

 出血のせいか、僕の意識は薄れ始める。警察と徹のやり取りが遠くで聞こえた。

 自暴自棄からの〝生への渇望〟────。

 しかし、満身創痍で僕の身体はいうことを聞かない。

 後のことは、警察に任せれば大丈夫だろう。


 ──寒気が……する。


 誰かが助けに来て安堵したせいか、僕はそのまま意識を失った。

 深く、深く、何度も、何度も、大切な友達に心の中で謝りながら──。

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