君を待つと決めた日
山儀篤史
1/僕は歩いて前に進む
平成二十七年十一月五日。
〝直線〟と〝曲線〟で世界が構築されていることに気付いたのは中学三年生の頃。
そんなくだらない真実に気付いてしまうほどに『いじめ』はエスカレートし、僕は
無視は人間としての尊厳が踏みにじられる、耐え難い暴力だと僕は思う。
いじめの飛び火が怖くてクラスメイト達が伊達の言う通りにしなくてはいけないのはわかっていたし、だからこそ僕は彼らを責めなかった。
彼らと同じ立場にいたなら、きっと自分もそうするだろうと思ったからだ。
伊達本人からは、顔以外への暴行や、時としてお金をせびられたりしている。
身体は痣だらけで、とてもじゃないが人前で服を脱げるような状態じゃない。
その繰り返される苦痛の日々を理由に〝死〟を考えた時期がある。もちろん〝生きる意味〟がどこかにあるのではないかと、希望を持とうとはしていた。
しかし──その相反する思考自体が無意味である事に気付き、僕は考える事をやめた。人は〝生〟を背負った時点で〝死〟の運命を辿っているからだ。
決められたレールの上で与えられた役割を演じ、定められた寿命の中で、どれだけの事を全う出来るかが人生なのだと自己完結に至る。
決して悲観的になっていたわけではない。僕が今の役割を担えば、それで周りは満足するだろうと思ったからだ。
どれだけ相手を否定しても、行動しても、助けを求めても、いじめが消えることはなかった。
──それなら、僕が変わるしかない。
そう。自分が変わればいいのだ。
全てを受け入れた上で、全てを受け流せる自分になればいい。
誰にも期待せず、誰にも頼らず、何でも自分の力でこなせる強い自分に──。
音もなく崩れてゆく自尊心。今は『いじめ』の矛先が他の誰かに向くまで、僕はただただ〝自分との関係〟も〝自分への関心〟さえも絶てばいい。
──そうすれば、苦しくないから。
そんな学校生活を送っているうちに、僕は笑い方を忘れてしまった。
表面上の笑顔は自分を守るためのペルソナ──つまり仮面だ。
たとえそれが卒業まで続いたとしても、せいぜい4ヶ月半。
僕は今の状態のまま、中学校生活にピリオドを打つと決めていた。
廃校が決まった都立中学校最後の卒業生の一人だけれど、学生生活に楽しい思い出など一つもなく、悪意が蔓延る学校の行く末になど興味がなかった。
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