軋む③
「それに陸くん、女の子にはあまり興味はないみたい。あなたのことは話すこともあるけど。隣に住んでる、幼馴染の夏海ちゃん」
からかうような笑みを浮かべ、真澄の後ろに隠れている夏海を覗き込んだ。
「そ……そうなんですか?」
大人びた礼香は、自分より二つも三つも上に見える。相変わらず敬語を使う夏海を振り返り、真澄は苦笑した。
「なんでそんなに緊張しているの? 礼香はタメじゃん」
「うん、分かってるんだけど――」
――この人と並んだら、自分なんて幼く見えるのではないか。
そんなことを考えて、夏海はちらりと陸を盗み見た。すると彼はこちらを見ていて、目が合ったとたんに軽く片手を上げる。
夏海も片手を上げて挨拶を返したあと、緊張にこわばった顔で礼香に向き直った。
「礼香さ……ちゃんは、何の部活をしているんですか?」
何か話さないと――と焦った夏海は、そんな質問を投げかけた。とたんに真澄が盛大に吹きだす。
「面白いでしょ、この子。人見知りだけど、慣れるとほんと楽しいから」
礼香にそう言いながら、真澄は夏海の肩にもたれかかって笑い続けた。
「ほんと。陸くんから聞いていた通りの子」
その言葉になんとなく棘を感じたような気がして、訝しく思いながら夏海は礼香を見上げる。が、その表情は楽しそうだ。
夏海の視線に気づいた礼香は、
「あ、ごめん。部活だったよね。私はバレー部。夏海ちゃんはバスケ部だったよね。それも陸くんから聞いてる」
と、笑みを浮かべたまま答えた。
「そっかー。陸くんってば、学校離れてもちゃんと夏海のこと考えてるんだね。せっかくお隣さんなのに、最近はなかなか話す機会がないって夏海も寂しがってたもんね」
「寂しがってなんか……」
寂しがってなんかいないと強がろうとした夏海だったが、礼香が観察するような目で自分を見つめていることに気づき、愛想笑いを浮かべた。
「まぁ、小学校低学年くらいまでは放課後に遊んだりしてたけど。でも陸くんが塾と家庭教師で忙しくなってからは、ぜんぜんだったし。中学に入ってからなんて、顔を合わせることさえ稀だったの」
と、聞かれたわけでもないのにそんな言い訳をする。敬語にならないよう意識して話したせいで、言葉遣いがぎこちない。
「そっか。じゃあ今日こそおしゃべりしないと。こんなに遠くに立ってないで」
礼香は夏海の肘をつかみ、戸惑う彼女を陸の元へと引きずるように連れていった。
「陸くん、だめじゃない。幼馴染を放っとくなんて。なかなか会えないんでしょ?」
相変わらず綾乃にまとわりつかれていた陸が、ホッとしたような顔をして夏海を見上げた。
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