育まれる思い⑬

「俺がどんな気持ちで告白したか分かってるのか? すごく悩んで、やっと決意して――一緒に帰るだけでも本当に嬉しかったのに。なんでそうも軽く友達とか言えるんだ? 周りの奴らばかり気にして、俺の気持ちはどうでもいいのかよ」


 いつもの優しい城田からは想像できないきつい言葉に、夏海は怯んだ。


「ご、ごめん。でも私、城田君のことを好きとかそういう風に考えられなくて――」


 答えている途中、いきなり城田が顔を寄せてきた。


「――!!!」


 夏海の唇に、乱暴に彼の唇が重ねられる。勢いが強すぎて城田の歯が当たり、唇が切れた。


「やっ、やめ――」


 力では到底敵わないと分かっていたが、夏海は必死に城田の胸を強く押した。するとあっけなく彼は離れる。


「俺は――ずっと好きだったんだ、お前のこと。だからがんばって――」


 泣きそうな顔でそう言った城田は言葉の途中で夏海に背を向け、全力で走り去る。


 夏海が切れた唇を手の甲で拭うと、血の色がにじんでいた。


(……やだ、キスされちゃった)


 ファーストキスだったのに――と、夏海は涙がにじむ目で角を曲がる城田を呆然と見送っていたが、彼の姿が消えたとたん、今度は驚きに目を見開いた。


 ――角の手前に、陸が立って夏海を見ていたから。


(いつもはもっと遅いのに。どうして今日に限って? ――まさか、今の見られちゃった?)


 キスされたときより、激しく動揺している。夏海は顔が熱くなっていくのを感じていた。


「り……陸君、今日は早いんだね。どうしたの?」


 何を考えているのかまったく読み取れない無表情で近づいてきた陸に、夏海はこわばった顔で尋ねた。


「実力考査中だから。そっちの中学はないの?」


 答える陸の口調は、いつも通り。


(――見られていない)


 そう思い、夏海は肩の力を抜いた。


「……うん。今月始めに期末試験があったばかりだし」


「へえ、いいな。こっちの期末は六月末に終わって、今は夏休み前の実力考査だよ。テストばっかで疲れた」


 がっくりと項垂れる陸に、夏海は同情の眼差しを向けた。


「うわぁ……大変だね」


「上位に食い込まないと家族がうるさいしね。――で、さっきの人は夏海ちゃんの彼?」


 突然話が切り替わり、夏海はしどろもどろになる。


「えっ? いや、あの……友達の友達っていうか……彼とかそういうんじゃなくて」


「けっこうイケメンだよね」


「あ、うん。けっこうモテてるみたい。おかげでまた変な噂が――」


「変な噂って? 彼と?」


 何気ない口調を装っているものの、幼い頃から彼を知っている夏海は気づいていた。不機嫌になると、陸はいつも右眉がクイッと上げる。陸の右眉は、今、上がりっぱなしだ。


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