育まれる想い⑫
「ちょっかいなんて出そうと思ってないし。ったく、こそこそこそこそうぜーんだよ。文句があるなら直接言いに来いっての!」
振り向きざまに真澄が怒鳴ると、背後で嫌味を言っていた二人の顔が怯んだように引きつったが、捨て台詞は忘れなかった。
「梨緒ちゃんもこんな感じでいじめられたんだー。怖いねー。あっち行こう?」
そしてそそくさと廊下を早足で去っていく。
真澄が夏海に対してキレたのは、その翌日のことだった。
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部活の間も真澄の機嫌が悪く、落ち込んだ真澄はその日のうちに城田に告げようと決意した。
小学の頃からずっと親友で、つねに自分の味方でいてくれた真澄を怒らせてしまったのが、とても怖かったから。
夏海にとっては城田より、真澄のほうが断然大事だった。
「城田君。悪いんだけど、一緒に帰るのは今日で最後にしようと思ってる」
いつものように校門で待っていた城田に、夏海はおそるおそる切り出した。
「どうして? 俺、なんかした?」
「なにもしてない。城田君は悪くない。私が悪いの」
項垂れる夏海の前で、城田は呆然と彼女の頭を見おろしている。
「――笹谷が悪いって……何が?」
遠慮がちに城田が問いかけると、
「城田君は人気者だし、毎日一緒に帰ると、友達っていうより付き合っているように見えるみたいで――その、嬉しく思わない人は多いみたいだから。
それもこれも、私がはっきりしないのが悪いの。私、付き合うとか付き合わないとか、良く分からなくて。友達って言われて、それなら……って思ったけど、そういう中途半端な気持ちで一緒にいるのってよくないと分かったの。
だから――城田君とも付き合うとかそういうのは考えられない。
でも友達として城田くんは好きだし、一緒に帰って私の知らないことをいろいろ話せて楽しかった。だけどこれが変な噂の元になるなら、やっぱりやめたほうがいいかなって」
言葉を吟味しながら、夏海はゆっくりと答えた。黙って耳を傾けていた城田は、傷ついたような顔をしてぎこちなく頷く。
「分かった。――じゃあ、今日が最後か」
「――うん」
重い空気を引きずりながら、二人は無言で歩き出した。
周囲の目を気にしながら歩いていた夏海にとっては長く、これが最後だと思うと名残惜しくてゆっくり進みたい城田にとってはあっという間の距離だった。
「じゃあ、また明日」
城田が寂しそうな顔で挨拶すると、夏海は慌てて確認した。
「え? でも一緒に帰るのは今日で――」
「違うよ。廊下ですれ違ったりするかもしれないだろ? それとも、話すことさえダメなの?」
少し怒ったような口調で城田が尋ねる。
「あ……。そういうことか。ごめん。それならぜんぜん構わないよ。だって友達だし、喧嘩した訳じゃないんだから」
夏海が安心したように微笑んだとたん、城田の顔が歪んだ。そして彼女の手首をつかみ、グイと引き寄せる。
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