育まれる想い⑪

「いや、そういうことじゃなくて。城田君は、夏海のことが好きって告ったんだよね? それが分かってて一緒に帰ってるんだから、もう付き合ってるようなもんだって思われてもおかしくなくない? なのに友達だとか言ってるから、中途半端なんだってば」


 珍しく苛立った様子の真澄が、人差指を夏海に突き出した。


「そういうのって、やっぱりイライラされて当然だと思うんだけど」


 率直な物言いに怯んだ夏海は、しょんぼりとうなだれる。


「……そっか。話したことがない人が、私に対してなんか怒ってるなって思ったことはあったんだけど……そういうことか……」


「そう。だから、はっきりさせなよ。夏海がそんなんじゃ、私だって庇いきれないって」


「――ごめん。そんなつもりじゃ――」


「私に謝らないで。とにかく、面倒なことが起きる前にちゃんとはっきりさせときなよ。じゃないと、相手も自分も傷つくことになるから」


「う……うん」


 優柔不断な自分に対して苛立つだけなら分かるが、真澄はどうも本気で怒っているように見えて、夏海はさらに落ち込んだ。


 親友が夏海に対してこんなに怒ったことなど、今まで一度もなかったから。



**************



 真澄が怒っていた理由は、その二日後にクラスの比較的仲の良い子が教えてくれたことで分かった。


 じつは梨緒が、城田のファンに小学校の頃の噂を広めていたのだ。しかも尾ひれを付けて。


 ――アイドル的存在だった陸を夏海が独り占めした。


 それでもあきらめきれずにアタックした梨緒の悪口を、夏海が陸に吹き込んだ。


 おかげで梨緒は陸に嫌われて、夏海はまた陸を独占。


 中学では城田に目をつけて、また独占しようとしている――云々。



 話を大きく捻じ曲げていて不自然も良いところだったが、もともと夏海に敵意を抱いていた女子はそのまま鵜呑みにしてしまった。


 しかし夏海を直接攻撃すれば、城田に嫌われてしまう。そのうっ憤が、夏海の親友である真澄に向けられたのだった。



 もともと明るい性格で多くの友人を持つ真澄には、味方も多い。嫌がらせがエスカレートすることはなかったが、下校中に待伏せて嫌味を言われるといったことはままあった。


 それも軽く流していた真澄だったが、なぜか片思いの相手を知れ渡ることとなり、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだった。



「あの子。笹谷の友達だけあって、図々しいよね。木村先輩にちょっかい出そうとしてるんだって」


「うわー。相手にされると思ってるのかね、あれで」



 憧れの相手である木村先輩という単語を出され、真澄の頭に一気に血が昇った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る