育まれる想い⑩

「あまり自信はないな。もともと真澄ちゃんに付き合って始めただけだから。身長も高いほうじゃないし、たぶん頑張っても補欠が精いっぱいだと思う。応援するほうが合ってるかも。城田くんは?」


 緊張しながらも、夏海にしては頑張って会話を続ける。


「幼稚園の頃からずっとサッカーしてきたんだけど、今年は後半しか出なかった。来年はフル出場したいな」


「後半だけでも選手として出たなんてすごいよ。サッカー部って部員多いんでしょ? ポジションはどこ? ……って、聞いたところで私はサッカーにはあまり詳しくないんだけど」


 夏海が尋ねると、城田は目を輝かせて答える。


「基本はフォワードなんだけど、システムによってミッドフィルダーに下がることもある」


「へぇー」


 それでもよくわからず、夏海は控えめな笑みを浮かべて頷いた。その分かりやすい表情を読み、城田はさらに説明する。


「フォワードっていうのはね、相手のゴール側に近いところにいる攻撃の要的存在。で、ミッドフィルダーはフィールドの中央部分に――」


 サッカーがよほど好きなのだろう。城田の口調に熱がこもる。夏海はうん、うんと頷きながら耳を傾けた。自分のことを話すより、人の話を聞いているほうが楽だ。



 そうこうするうちに、学校から徒歩十五分の位置にある夏海の家が見えてきた。


「私んちはあそこだから――。今日は送ってくれて、ありがとう」


 慌てて距離を取ろうとする夏海に、城田は詰め寄った。


「明日も一緒に帰れるかな?」


 夏海は陸の家を横目で盗み見て、誰もこちらを見ていないことを確認してホッとする。


「えーと――うん、たぶん」


「本当に? やった! じゃあ、また明日!」


 城田は心から嬉しそうに、屈託のない笑顔を浮かべる。日焼けした肌に、白い歯が映えた。モテるのも分かるような気がする――と夏海が考えたとき、彼女の声か匂いに気づいたジョンが、庭で甘えた鳴き声を上げた。



 その日から当たり前のように毎日城田とともに下校するようになった夏海は、次第に彼のファンを自称する女子たちに目を付けられるようになっていった。


 梨緒のように直接嫌がらせはないが、夏海を見ながらこそこそ囁き合ったり、彼女が近づくと急に話を止めたりといったことが、ときどき見受けられるようになった。梨緒よりはましだと思って気にしないようにしていた夏海だったが、それが何度も続けばさすがに堪える。



「中途半端だから、よけいに敵意を集めるんじゃない?」


 真澄に指摘され、夏海は深いため息をついた。


「中途半端って? 城田くんとは友達なのに、これ以上どうすればいいのか分からないよ」


「だからそれが中途半端なんだって。毎日一緒に帰ってるし、それってほとんど付き合ってるようなもんだよね」


 呆れたような声に、夏海は申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん。真澄ちゃんとも帰りたいんだけど――」

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