育まれる想い⑨

「違う、違う。私の好きな人は知ってるでしょ」


 そう言って、真澄はシュートの練習をしている一つ上の男子バスケ部員に視線を向ける。


「やっぱり木村先輩一筋なの?」


「当たり前! 一目惚れだったんだから。――ただ、心配なの。夏海って大人しいから、城田君狙いの女子にまた虐められるんじゃないかと思って」


「まさか。だって、とりあえず友達ってことなんだから」


「うーん――大丈夫かな、ほんと。心配だよ。なんかあったらすぐ私に言いなね」


「真澄ちゃんたら……いつからそんな心配性に?」


「ずっとだよ! さ、休憩終わり。コートに行こう」


 真澄は水筒の麦茶をもう一口飲んでから、勢いよく立ち上がった。



 部活が終わった後も真澄にからかわれ、部室を出るのが遅くなった夏海は、校門へと急いだ。辺りは夕暮れでオレンジ色に染まっている。城田は校門によりかかり、ポケットに手を突っ込んでぼんやりとしていた。


「ごっ……ごめんね、待たせちゃって。ちょっと友達につかまっちゃって」


 急いで駆けてくる夏海に気づいた城田は居住まいを正し、照れくさそうな笑みを浮かべる。


「いいよ。俺もさっき来たところだし」


「――そうなの? それで、城田君はどっち?」


 小学校は別だったから、お互いの家は近所ではないだろうと思いながら夏海が聞く。


「俺んちはこっち。さくら通りを抜けて、多摩川と逆方向に進むんだけど」


「ああ、じゃあ途中まで一緒だね。わたしはさくら通りを抜けて多摩川方向に行くんだ」


「知ってる。家まで送るよ」


「いいよ、別に。遠回りになっちゃうでしょ」


 逆方向なのに送ると言われ、驚いた夏海は片手をひらひらと振りながら断る。


「いいんだ。俺が行きたいんだから」


「でもお母さんに見られたら――大騒ぎしそうだし」


 夏海の母親は厳しいほうではないが、いきなり名前も知らない男子と一緒に帰宅したら、城田のことを根掘り葉掘り聞きだそうとするだろう。


 それはさすがに気まずい。それにもし陸が早く帰宅していて、城田を見たらどう思うだろう――という考えもちらりとかすめた。


なぜ見られたくないと思ったのか。自分でも訝しく思ったものの、その疑問は城田の声にかき消された。


「大丈夫。姿を見られないように、手前で帰るから。友達になるなら、もっと話してお互いを知りたいし」


 食い下がる城田に根負けし、夏海は渋々頷いた。


「そう? ――じゃ、行こうか」


 ――付き合いたいと言われても、城田が何を求めているのかよく分からない。


 夏海は自分より頭ひとつ大きな彼と肩を並べ、俯きながら歩き始める。今まで接点がなかった相手と、何を話したら良いのかも分からない。


「そういえばさ、こないだの全中、笹谷は応援だけだったんだよな? 来年は選手になれそう?」


 差しさわりのない話題を城田が振った。


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