育まれる想い⑧

「そ……そうなんだ。じゃあ、友達みたいな感じ?」


「え? ……あ、うん。そうだね。友達って思ってくれればいい。今までちゃんと話したことがなかったし」


「――そうなの? じゃあ、まずはお友達から――で、いいのかな」


「もちろん」


 本当はそれでは満足できなかったが、城田は無理に笑顔を作る。


「じゃあ早速、今日一緒に帰らない?」


「あ――うん」


 いつも真澄と一緒に帰っている夏海は、ぎこちなく頷いた。


(真澄ちゃんになんて説明すればいいんだろう。城田君に友達になってって言われたから、一緒に帰れないって? ……変だよね、それって)


 迷っているような夏海の表情を見て、城田はたたみかけた。


「なら、部活後に待ってるよ」


 その勢いに押され、夏海は思わず頷いていた。


「――分かった。じゃあ、放課後に」




 夏海が男子に告白されたのは、これが初めてだった。嬉しいといえば嬉しいが、戸惑う気持ちのほうが大きい。じつはからかわれているのではないかという考えが、ちらりと頭をかすめる。


 しかしそれにしては城田はものすごく緊張していたような気がする。


 夏海は首を捻った。


 ――とりたててかわいいというわけでもなく、目立っているわけでもない自分の何を好きになったのだろうか。


 それが不思議で仕方がなかった。



***********


 部活の合間に夏海が一緒に帰れない理由を説明すると、真澄は目を丸くした。


「まじで? あの城田君が? あの子、けっこうモテるんだよ。夏海ってば、陸君といい、城田君といい、ハイスペック男子に好かれるよね。羨ましいな」


「好かれるって……そんなことないよ。陸君はただの幼馴染だから。恋愛とか付き合うとか、そういうのとは関係ないの。城田君に関しては、私もびっくりしてる」


 答えながら、夏海は遠い目をした。


 ――隣に住んでいる幼馴染とは、もう一週間近く顔を合わせていない。


 連絡しようと思えばできるのだが、陸はいつも忙しそうにしているから(実際、帰宅後も習い事や塾や家庭教師でほとんど自由な時間がないとこぼしていた)、用事もないのに連絡するのも気が引けた。


 寂しそうに俯く夏海の顔を覗き込んだ真澄は、その表情を探るように見つめる。


「ふーん。でも陸君と夏海って、両想いなのかと思ってた。――で、本当のところはどうなの? 梨緒の意地悪がなければ、うまくいってたんじゃない?」


「だから、そういうんじゃないってば。まだ小学生だったんだし」


「じゃあ、今は? 陸くんのことはなんとも思っていないの?」


 いつになく食い下がる真澄に戸惑った夏海は、首を捻った。


「どうしたの、真澄ちゃん。まさか、城田君のこと――」


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