育まれる想い⑦
夏海が近づくと、城田は扉の影で困ったような顔をして立って待っていた。
「ちょっといいかな」
夏海は頷き、促されるまま渡り廊下を抜け、人気のない理科室の前の階段へとついていく。その間ずっと、城田は緊張した面持ちで黙り込んでいた。
階段の手すりに肘をついたまま何も言わない城田に戸惑いながら、夏海は遠慮がちに尋ねた。
「城田君、どうしたの?」
すると城田は振り返り、今度は手すりに背を預け、歯切れ悪く切り出した。
「あのさ、笹谷って好きな奴はいる?」
「わたし? なんで?」
「いや、だから――付き合ってる奴とかいるの?」
いきなりそんなことを聞かれて驚いた夏海は目を見張り、城田をまじまじと見つめる。サッカーの練習でこんがりとよく日焼けした肌が、ほんのりと赤らんでいた。切れ長の目を伏し目がちにして、彼女の答えを息を詰めて待っている。
「付き合うって――まだ中二だよ? いないよ、そんな人」
中二にもなれば付き合う付き合わないといった話もよく聞くようになるが、もともと人見知りの激しい夏海は非常に奥手だった。
「そっか。なら、片思いの相手とか、いる?」
城田の質問が不躾なものに感じた夏海は、さすがにむっとした表情を浮かべた。
「そんな個人的なこと、城田君に教えるつもりはなんだけど」
そう答える途中で頭の中に陸の顔が浮かんできて、夏海は少し動揺した。
(どうして急に、陸君を思い出しちゃったんだろう)
――たぶん陸が一番身近な男子で、会いたいのにしばらく会えていないから。
だから彼のことを思い出したんだろうと思うことにして、夏海は苦笑する。
「話ってそれだけ? 女子のデータでも集めているの? とにかく、わたしは答えるつもりはないし、そろそろ教室に戻るね」
男子の間でそのような遊びが流行っていると噂で聞いたことがあるような気がして、夏海は半ば呆れながら城田に背を向けた。渡り廊下へと歩き始めた彼女の背に、城田が慌てたように声をかける。
「俺! 好きなんだ、笹谷のこと。だから――だから、知りたかった」
夏海の足が止まり、硬直したまま動かなくなった。なにをどう反応すればよいのか分からなかったのだ。
無言の夏海に、城田はさらに慌てた。
「別に好きな奴がいるならそれでいいんだけど。でも、もしいないんだったら――俺と付き合ってくれないかな」
すると夏海が、ゆっくりと振り返った。顔が真っ赤に染まっている。
「そんなこと、急に言われても――私、そういうの慣れてないし。付き合うって言っても、何をすればいいのか分からないし」
「何を、って……映画を観に行ったり、一緒に帰ったり、勉強したり……?」
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