育まれる想い②

 真澄とも再び同じクラスになり、さっそく親友の席に移動して会話していた夏海は、足取り軽く自分の教室へと戻っていく梨緒を見てため息をつく。その視線を辿った真澄は、思い切り顔をしかめて梨緒の背中を睨み付けた。


「なんであげちゃうんだろう。どうせなくしてなんかいないのに」


 そして心配そうな表情で、夏海の顔を覗き込む。


「あの子、陸君に近づく子にいじわるするんだって。そんなことをしたって、嫌われるだけなのに」


「陸君は優しいから、相手が誰でも嫌ったりしないと思うよ」


 夏海が言うと、真澄は机越しに身を乗り出し、にんまりとした。


「そんなこと言って。のんびりしてると、誰かに陸君を取られちゃうよ」


 いきなりそんなことを言われて驚いた夏海は、目を丸くした。


「取られるって――どうして? 陸君は別に私の物じゃないよ」


「またまたー。陸君に憧れてる子が多いのは知ってるでしょ? 勉強できるし、スポーツも得意だし、顔も良いし。夏海ちゃんを羨ましいって思ってる子、けっこういるんだよ」


「そんなこと言われても――。隣に住んでいるんだから、仲が良いのは当たり前でしょ?」


 答える夏海の頬が、ほんのりと赤らむ。



 小学五年にもなれば恋バナに花を咲かせる女子も多いが、その輪に夏海が加わることはなかった。五歳の頃からずっと一緒に過ごしてきた陸のことは好きだが、それが恋愛かどうかもまだ分からない。



 ――ただ、一緒にいたいだけ。


 彼と一緒にいると、楽しいから。



 陸がほかの子と楽しそうに話していると寂しい気持ちになることはあっても、梨緒のように彼らの間に入って邪魔をしたいと思うことはなかった。



 じつは夏海たちが三年生のとき、梨緒にも


「夏海ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」


と言われたことがあった。



 一度も話したことない、派手な女の子に話しかけられて驚いた夏海だったが、他の子に対するのと同様、彼女にも


「ごめん、用事があるから」


と言って断った。以来、睨むような目で見られたことはあったが、それ以上何かをされたことはない。



 しかし五年生で陸と同じクラスになってからは、やたら絡まれるようになった。


 例えばトイレに行ったとき、夏海が入っている個室のドアがどんどんと叩かれた。急いで入りたいのかと思って慌てて夏海が出ると梨緒が立っていて、


「やだ、臭い。別のトイレに入ろうっと」


と大声で言われ、非常に恥ずかしい思いをしたこともある。



「言い返せば良かったのに!」



 当時相談した真澄に憤慨され、夏海はしょんぼりと肩を落とし、


「でも、なんて言い返せばいいのか分からなくて」


と涙目で答えた。




「今度何か言ってくることがあったら、私が言ってやる」


 真澄はそう意気込んでいたが、梨緒がいじわるをしてくるときは、夏海が一人のときを狙ってくる。



「陸君に言っちゃえば? 梨緒は嫌な奴だって」


 真澄にはそうも言われたが、普段から悪口を言わない陸に報告するのも躊躇われた。それに彼に言ったと知られたら、よけいにエスカレートするような気もして、夏海は弱々しい笑みを浮かべる。



「大丈夫。相手にしなければそのうち収まるんじゃないかな」



 しかし梨緒のいじめは、エスカレートする一方だった。言葉の刃が、まだ幼い夏海の心を傷つけていく。

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