育まれる想い①
子供ながらも整った顔立ち、洗練された物腰と服装のためか、入学してすぐに陸は学年の人気者になった。つねに友人に囲まれている。
だから夏海は、学校ではあまり陸に話しかけなかった。というより、陸が話しかけてくるまで自分から接することはなかった。登校は一緒でも、下校では陸は友達に誘われて別行動になる。
そのうち夏海と陸の家が隣り合っていることは周知の事実になり、
「夏海ちゃんて、陸くんのお隣さんなんでしょ? 今度遊びに行ってもいい?」
たいして仲良くない女子に、そう声をかけられることもある。
知らない子を家に招きたくなどない夏海は、
「お母さんに聞いてみて、いいって言ったらね」
と返事をして、実際に母親に確認せずに流していた。
度重なれば不服に思う子も増えてきて、
「夏海ちゃんていじわるだよね」
といったうわさ話も流される。
(別にいいもん。わたしと遊びたいんじゃなくて、陸くんちを覗きたいだけなんでしょ? お友達じゃない子を家に連れてくるなんて嫌だし)
人見知りではあるが、夏海には頑固なところもあった。
*************
四年生まで夏海と陸が同じクラスになることはなく、相変わらず学校では他人のように過ごしていた二人だったが、五年生でやっとクラスメートになった。
「やっと同じクラスになったね。卒業までクラス替えはないから、二年間は一緒だね」
掲示板でクラス編成を確認してすぐ、陸は隣に立っていた夏海に嬉しそうな口調で語り掛けた。
「うん!」
夏海が頬を染めて頷いたとき、後ろからドンとぶつかられ、体がよろめいた。
何が起きたのかと驚いて振り向いた彼女の目に、陸が好きだと公言してはばからない梨緒がそそくさと離れていく姿が映った。わざとぶつかったのだろうが、他のクラスメートは誰なのかと確認に忙しかった陸はそのことに気づいていない。
「そろそろ教室に行こうか? 席も近いといいね」
「――うん」
落ち込んでいることに気づかれたくなくて、夏海は精一杯の笑顔を浮かべたのだった。
*************
梨緒は、隣のクラスだった。
休み時間になると、彼女は何かと用事を作っては夏海たちのクラスにやってくる。そして定期的に陸に頼むのが、
「陸君、消しゴム貸して。なくしちゃった」
または、
「陸君、シャーペンの芯、ちょうだい。ちょうどなくなっちゃったの」
だった。
しかし陸が貸した消しゴムが返ってくることはない。梨緒からは一度告白されていたから、好きな男子に近づき、彼のものを手元に置きたがっているだけだということは、陸も分かっていたようだ。
「今は恋愛とかよく分からないから――」といった内容で断れらたと梨緒は誰かに言ったようだが、それが本当かどうかは確認のしようがない。ただ陸は気を悪くする様子もなく、気前よく消しゴムを半分に切って梨緒に手渡していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます