「おはよう!」


 翌朝。布団を頭まで被って寝ていたベルンを起こして、クオたちは食堂のある「本館」に向かった。


 暖かな朝陽が真っ白に照らす神殿。新緑の木々たちや、「本館」へと続く廊下から見える中庭の芝生も、綺麗な緑色に光っていた。


 「本館」のロビーには、すでに他の子どもたちがいて、ターラを囲って輪を作っていた。


「おはようございます!」

「おはようございます。クオ」


 それかれベルンも、とターラはクオの後ろであくびをするベルンにむかって、優しく微笑んだ。


「さぁ、みなさん。お天気も良いですし、ベルンの歓迎会もかねて、朝食は中庭でしましょう」


 ターラのその提案に、クオをふくめた子どもたちは、大いに喜んだ。



 澄みわたる朝空の下は、ちょっぴり肌寒いけれど、足元の芝生からは暖かな熱が感じられて心地よい。


 真っ白な塀で囲まれた中庭。無垢材のテーブルに子どもたちが並んで座り、廊下からターラと当番の子どもたちが朝食を運んでくる。

 メニューはヤングコーンとキャベツが入ったトマトスープに、ブロッコリーのサラダとスライスしたバケット。新鮮な色のイチゴジャムの瓶がテーブルの真ん中に置かれ、各々には細切れのバターが渡される。


 クオとベルンは並んで座っていた。

 目の前の料理を食い入るようにして見つめるベルンに向かって、「いただきますをしてからだよ」とクオは笑って言った。

 最後にターラがひとりひとりのガラスコップにミルクを入れ終えると、手を合わせた。


「いただきます」

「いただきまーす!」


 それを合図に、子どもたちは一気にご飯へ手を伸ばす。まわりに圧倒されつつ、ベルンもバケットを一口かじった後、トマトスープを一気にかきこんだ。


 空腹は無限のスパイスだ。ベルンは、かつて自分が過ごした過酷な環境のことを思い出していた。


 心地よい風がそよぐ。

 しばらくして、笑い声で包まれた食卓にターラが呼び掛けた。


「ベルンのお話を聞きましょう」


 突然の指名にさっぱりなベルン。しかし、となりのクオや他の子どもたちも、行儀よくニコニコと姿勢を正した。


「無理せず、ゆっくりで良いからね」


 クオが小声で言った。

 そのおかげか、ベルンはキッと表情を固くしてから、ゆっくりと語り始めた。


 ベルンの生まれは、戦争のために大国によって創られた人工島だった。

 その名の通り、島は機械的オートマチックで、ロボットが管理、教育し、食事も決まった時間に必要最低限の栄養スープが自動的に配達される。

 

「そこで俺は生まれた――ううん、造られた」


 その島の子供たちには親はいない。今の時代ではすでに大半となった人工授精で生産され、彼もそのうちのひとりだった。目的はただひとつ。立派な戦士に育て上げるため。


 生まれたときからカプセルに入れられ、言語、数学、歴史、それから忠誠心も植え付けられる。カプセルから出ると、戦いに必要な体術、知識を訓練される。もちろんロボットたちに。


「俺も、あと半月ほどでカプセルからする頃だった」


 クーデターが起きた。

 ベルンはどうしてか、ターラを睨み付けるようにしてそう言い放った。


 人工のその島にやってきた敵国の兵士たち。システムがシャットダウンされ、カプセルに入った子どもたちは解放された。

 コンピューターによって教えらたことが「すべて」だった。


 カプセルから強制的に解放されたベルンたちは、侵略してきた連中に保護されたのだ。

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