第22話 初見初耳

 急いで門へ向かうと、すでに彼女は待っていた。

「あ、干支先輩!」

「待たせたな。」

「いえいえ、着いたばっかりでしたので。」

「じゃあ、帰るか。」

「少し寄るところがあるので、遠回りしてもいいですか?」

「ああ、いいよ。」


 端から見ると、やはり彼女はまだ高校生なんじゃないかという風貌である。なんというか、小動物みたいというかなんというか。


「まあ、おっぱいも小さいですしね。」

「おっぱいの話はしていない‼」

「ちなみに、小さいです死ねって言ったの分かりました?」

「さらっと暴言言わないで‼」

 別に貧乳でも問題ないと思うぞ!


「そもそも、貧乳って言葉がすでに差別だと思います。何ですか、貧しいって!別にごはんは普通にたべてますよーだ!」

「話変えて良い⁈」

 普段から、思う節があるのだろう。

「そういえば、この前TVでアニメ見てたんだけど、」

「何のアニメですか?」

「えっと、『未来の私に幸あれ!』だったかな?」

「それ、私の作品です!」

 …え?君、大学生だよね?小説書くんだ…というか、アニメ化までしてんの⁉

「卯生ちゃん、嘘はよくないよ。」

「嘘じゃないです!あとで、部屋に来てもらいますから覚悟してくださいね!!」

「分かったよ…ごめんごめん。」

「あ、全然わかってない!むしろめんどくさそうな顔をした!」

 頬を膨らませるところに、面影を感じる。

「で、寄るところって?」

「この踏切です。」


 途中から、寄るところに向かっていたため、全然知らない道に入ってたので、よく分からなかったが、なるほどこういうサプライズか。

「洗脳踏切です。覚えてます…よね。」

「ああ。」

「ここで、あなたを殺すはずでした。」

「ああ。…え?」

「本当に申し訳ありませんでした。」

「ちょっと待って…ん?思ったのと違うんだけど・・・」

「すべて話したくて、ここに連れてきました。」

 見ると、河内冴姫が申し訳なさそうに手をもぞもぞさせている。その割に、顔は笑顔だ。

「15年前にさかのぼります。」

 さあ、謎解きの答え合わせだ。


「まだ、幸助じいちゃんが健在だったころ。よく、お姉ちゃんと一緒に相談所にあそびに行ってました。まあ、お母さんが仕事に出るので、面倒を見てもらったの方が正しいですかね。

「そして、あなたと出会った。

「はじめは、別に何とも思ってなかったんだけど、会えば会うほど、合うことが分かってね。

「ほぼ同時期に、弥生姉も想ってたみたい。そうして慮るあまり、弥生姉とも気まずくなって。

「そこに大漁まつりが現れた。いわゆる、友達以上恋人未満の距離感に、抜かれたと思ったよね。


「でも、私は知っていた。あなたが、よみかず君が弥生姉が好きな事が。


「どうやら、まつりさんも気づき始めてたようで、それでも彼女は諦めなかった。まつりさんと弥生姉が険悪になっていくのが見えた。

「でも、よくよく考えると、意外とそうでもないんだよね。外から見ると複雑なことも、いざ中に入っちゃえば、簡単だったり。専門用語を言われていて、さっぱり分からなかったのに、少し勉強すればついて行けちゃうみたいな。

「当時の私にそんな考えは、全くなかった。まつりさんも弥生姉も仲良くなるなら、私何でもしたいと思った。


「そこに、さっちんが現れた。河内冴姫だったよね。そして、彼女は願いをかなえる妖精だと言った。

「世界と世界をつなぐ交渉人とも言っていたかな?なので、便乗してお願いした。

「結果、よみかず君を殺害するということになったみたい。

「でも、そこで誤算があった。よみかず君の隣に、弥生姉がいた。そして、お母さんもいた。

「そのあと知ったんだけど、お母さん、子供がいたみたい。

「あ、言ってなかったけど、お父さんいるからね?

「そうしてああなった。

「お姉ちゃんは、これをまつりさんの策略と勘違いしたみたいですけど。

「どうですか。やっぱり私って最低ですか?」


 何も言えなかった。

 やはり弥生さんは、俺を助けてくれていたのか。


「そして、今度はあなたの番です。」

「俺の、番?」

「すべてを知って、その上であなたはどうしたいですか?」

「どうしたいって、何が?」

「和泉弥生さんのことです。」

 さっきまで、黙っていた冴姫ちゃんが重い口を開けた。

「でも、弥生さんはもう?」

 いなくなったんじゃ?


「いえ、弥生さんはいます。」

「え、でも?」

「それは、弥生さんの願いがかなったので。」

 ペアリングが切れたから。彼女はそう言う。

「完全に弥生さんを成仏するなら、あなたの願いも叶えなくてはなりません。」

 それが、マナーです。交渉人としての。

「じゃあ、俺は。」

「どうしたいんですか?」


 俺は、どうすればいいんだ。

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