第21話 中道中派

それが何を意図しているのか。仮説に基づけば一発でわかるのだが、果たしてそれが正解なのか。

そうこうしている内に、学校についていた。


「じゃあ、用事があるんでここで。14時に校門前でどうですか?」

「OK、分かったよ。」


…え?今、全然自然な感じで初対面(ではないのか?)の人と約束した?

すごいな。これもまた、和泉家のコミュニケーション能力ということか。

授業を終えて、時刻は13時。時間に余裕があるので、大和の元へ。


「おや、もう学校に来れるのかい?」

「まあな。」

「それで、何かわかった?」

「ああ。」

「じゃあ、聞かせてもらおう。君の成長の証を。」

「成長?」

「というか、想像かな。想像で創造した産物の話だよ。」

「分かったよ。」


昨日分かったことは、詳らかに話した。彼女と俺の世界がつながったこととか、いろいろと。

「こよみ君の感性には、歓声を上げたくなるね。」

「そんなギャグじゃ、どの世界も閑静になるよ!」

「関西の人も、笑ってくれないなぁ。」

「もはやかんさいじゃねえか!漢字だからセーフとかじゃないから!」

「これはこれは、落とし穴だったね。いや、陥穽かな?」

「いつ終わるそれ!?」

「おやおや、管制を敷くつもりかい?」

「もう完成でいいだろ!」

「寛政の改革は、もう少し続くだけどなあ。」

「喚声を上げるぞ!」

「官製はがきみたいに、もう終わりだね。」

「終刊だ!」

「いや、週刊だ!」

「週一でやるの⁈」

「というか、習慣だよ。」

「嘘…だろ…」

「はい、終わり、完成。ほら、先にこよみ君が言っちゃったから…すべっちゃったじゃん。」

「もとからウケてねえよ‼」

長かった。


「じゃあ、中学生弥生さんは、さつきちゃんとして。大人弥生さんは、弥生さんとして。それぞれ、こよみ君の世界に現れたわけだ。」

「そうなるな。」

「じゃあ、高校生弥生さんは?」

「それが、分からないんだよ。」

「その感じだと、察しはついているようだけど?」

「まあ。今日初めて会った、和泉卯生って子なんだけど…」

「ああ、下の階の。」

「何で知ってるんだよ!?」

「いや同じアパートだし。」


「はあ⁈」

「そうだよ?知らなかったの?」

「初耳だよ⁈」

「あのアパート、つまりはフォンテアマレロだけど、結構みんな住んでるよ?」

干支暦和と、如月大和、和泉卯生、そして摂津文水。みんな、あのアパートだよ。

「え⁈文水さんも⁈」

なんだ、じゃあ別に帰ってもらわなくてもよかったじゃん…


「そうなんだ。」

「話を戻すけど、じゃあその人が、つまりは和泉卯生って子が、和泉弥生の妹だと?」

さすがにピースが合いすぎて怖い部分ではあるのだが、そうとしか言いようがないのである。


和泉という苗字。

卯生という名前。

そして、あの笑顔。


もしかすると、和泉卯生はあの踏切について、知っているのかもしれない。タイミングがあれば聞いてみよう。

「そうは、行かないみたいだよ。」


大和が指差す方向には、これまた2度と会わないと思っていた女の子がいた。

「どうして?」

不気味な後輩は、意味深長に笑う。


「どうしてって、あなたの願いを聞きに来たんです。」

「俺の、願い?」

気の抜けた教授は、表情を変えて問う。

「説明してもらおうか?君が、彼女を殺した理由を。」

何も知らない当の本人は、蚊帳の外だった。


「やめてくださいよ、人聞きの悪いー。私は願いをかなえるだけです。願いをかなえる妖精です。要請があれば、いくらでも飛んでいく妖精ですよ?」

「正体が、全くつかめんな。」

「掴ませませんよ。」

微笑む後輩。否、嘲笑うの方が近いか。


「でも、ヒントなら差し上げます。意外と近くに正解はあるものです。そして、恋敵にはいなくなってもらいたいものです、例えそれが兄弟であっても姉妹だとしてもね。」

「ま…さか…」

「お!わかりましたか⁈先輩さすがっす!」

この後の展開を考えると、少しあの集合場所に寒気を感じる。怖気がする。

「じゃあ、私はこの辺で。」

振り向くと、すでに彼女はいなかった。


「どうするの?こよみ君。」

「どうするって、聞くしかないでしょ。」

「そうだろうね。」

「なあ、大和。」

「何?」

「各世界共有説って知ってる?」

「当たり前じゃん。というか、結構な信者だよ?」

「じゃあさ、あの河内冴姫って。」

「たぶん、人間じゃないな。人間っぽい何か。すごく人間に近いもの。誰もが持っている、人間の中身。」

それを、何と呼べばいいのだろうか?いわゆる感情の部分であるあれは、人によって呼び方が変わるのだろう。


「そして、それは中立を好む。」

「中立?」

「要は、バランスだよ。誰かがいい思いをすれば、逆に不快な思いをする。誰かが幸せになれば、それに匹敵する不幸が、誰かに訪れる。弥生さんの願いは、1年契約というデメリットで賄われている。そして、卯生ちゃんの願いは、」

姉の死によって、対価が支払われている。


「じゃあ、踏切の事故は。」

「きっと、冴姫ちゃんの策略だろう。」

人の運命というのは、どうやら誰かの意図によって決められているようだ。そして、それは善意だけでなく悪意でも決まるようだ。


「人は1人で生きられないというけど、それはこういう意味も含まれていたりするのかな?」

背伸びをして、昼寝に突入しようとする大和。

「じゃあ、ドア締めといてね。」


時刻は、約束の時間に差し迫っていた。

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