第20話 記憶蘇生
「夢の時間を思い出したか?」
「まあ、そんなところです。」
「整理は、着いたのか?」
「ええ、疑問はまだ残ってますが。」
「ちなみに、なんだ?私に言ってみろ。」
「いや、どうして見たこともないはずの妹、さつきちゃんが中学3年生として、何の疑いもなく存在していたのかということです。」
「それは、あれじゃないか?いわゆるみんなそれぞれ世界を持っているという説。」
各世界共有説。この世界というのは、各々の人間が持っている世界観が共有されることで成立しているという説。冴姫ちゃんから教えられた弥生さんが言っていた。この説のおかげで彼女と再会できたというのなら、うれしいことこの上ないのだが、それと関係があるのか?
「世界観が違えば、ルールが違う。常識が違う。マナーが違う。だからこそ、人々は自分の世界が正しいと信じ込んで他の人と争うことになる。」
「なるほど。」
「今回の場合、それがいい方に向かったのだろう。和泉弥生が求めた干支暦和がいるという利益と、干支暦和が求めた和泉弥生がいるという利益が、見事に合致し」
2つの世界がつながった。
物や、人の体を形成するもっとも小さい粒子、分子。それが、電子を共有することで結合するように。
「そういう説のことを、非科学的だと馬鹿にしていたが、そうしてみると変に筋が通っていて否定しがたいな。」
「でも、それじゃあまだなぜ成長しているのかという疑問の正解になりません。」
「まあ、慌てるな。ゆっくり読み解けばいい。暦和という人間の心を。」
「俺の、心?」
「君は、小学生の弥生さんしか見てないんだろ?」
「現実では。」
「だから、その現実っていうのは、自分の世界でしかないのだが…まあいい。つまり、中学生の弥生さんは見たことないんだろ?」
「そうですね。」
「だから、見たかったんじゃないのか?おそらく君は、通りすがりの中学生とかを見て、弥生さんを思い出していたんじゃないか?」
ちゃんと見たら、中学生のエロ本とか、DVDとかないし。
「ちゃんと見ないでください!」
「少し気が引けたんだろ。」
「それで、中学生和泉弥生として、和泉皐生を作った。偶然、和泉弥生にはちょうどそれくらいの年の妹が生まれるはずだった。」
ぴったりとはいえないまでも、パズルが出来上がっていくような音がする。
「そして君は、大人和泉弥生を欲した。すごくわがままで、さすがに叶えられないだろうと思ったが、これまた奇跡が起きる。和泉弥生もまた、成長した干支暦和を欲していた。」
こうしてまた、ピースが嵌まる。結びついてくる。
「そんなご都合主義な話、マンガでも読めませんよ。」
「本当だよ。」
二人ともが傲慢で、自己中心的で、わがままだったからこそ起きた奇跡。
「でも、不思議がまた残りましたよ?どうして、高校生は求めなかったんでしょうか?」
「この家に来たら、一発でわかるよ。むしろ、今まで気づかなかったのか?」
「え?」
「この家に来て、何年になるんだ?」
「3年ですよ?」
「じゃあ、知っているはずだ。」
「え?」
「答はここにある。」
指をさした方向は、下だった。下の階ってことか?
「行ってらっしゃい、和泉卯生の家へ。」
和泉…卯生?
さすがに夜遅くまでいてもらうのは、気が引けるので暗くならないうちに帰ってもらった。
「ちゃんと寝ろよ。」
「分かってます。」
家に帰り、カレンダーを見る。もう、1月だった。きっと文水さんの計らいだったんだろうが、正直恐怖を感じざるを得なかった。弥生さんとの再会をしてからもなおお化けという存在を否定しない大学生だ。
「各世界共有説か…」
世界観が違うなら、ルールが違うのは当たり前のことで。そのルールの共通項が多ければ、または世界観が似ていれば、結婚という形での世界観共有がなされるということか。
「こんなに考えても仕方ないよなあ。」
しっかり寝て、それから考えることにする。
「おやすみ。」
誰もいないことを再確認して、寝た。
翌日。意外と寒くなく、小鳥もさえずっていた。
「ふわあ。」
起こしてくれる妹も、ご飯を作ってくれるお姉さんもいない朝を迎えるのは、いつぶりだろうか。
「はぁ。」
自らご飯を用意し、自らでそれを食べる。喪失感というか、虚無感というか。
大学に行く準備を終わらせ、家を出る。階段を降りると、同じく登校なのか少女がそこにいた。
「おはよう。」
「お、おはようございます。」
見た目としては、おしとやかで静かな感じであった。カチューシャの輝くゴールドとは裏腹に。
「学生さん、ですか?」
さすがにこの年だと、サラリーマンに間違えられやすいのだが、この少女は観察眼が非常に高いようだ。
「一応ね。大学生。そっちは?」
「大学生です。4月から3年になります。」
「じゃあ、後輩だね。」
「そ、そうなんですか⁈どこの大学ですか?」
「うん。紅宮大学だよ。」
「私もです!」
こうして、二人で学校に行くことになった。誰かと一緒に学校に行くなんて、それこそ小学生以来だ。
「名前、なんて言うの?」
「和泉、卯生です。うさぎ年の卯に、生きるで、うづきです。」
和泉…卯生?まさか、この子が…?
「あなてゃは?」
彼女も緊張するのだろうか?
「すみません。嚙んじゃいました。」
てへっと頭を掻きながら笑う彼女の隅々から、やはり和泉家の雰囲気を感じる。
「俺は、干支暦和だよ。」
「か…かかか、干支君⁈」
あれ、覚えてるの?
「干支君て、あの干支相談所の⁈」
指をさしながらわなわなする卯生ちゃん。
「そうだよ?」
「じゃじゃ、じゃあお姉ちゃんの。」
何か整理がついたのか、安堵の表情を浮かべ、そしてこう告げた。
「お姉ちゃんを、責めないでくださいね。」
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